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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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うん、そうやね・・と恭子も、俯きながら笑った。


「さ、そろそろ行くけ」
「雷オヤジに、叱られに帰るっちゃ」
恭子は明るく言って立ち上がり、ボストンを持った。

「いいよ、ホームまでオレが持つから」
「ありがとう」

会計を済ませたボクらは、改札口を抜けて跨線橋を渡り、新幹線の乗り場に着いた。

「したら、うちはコッチやけ」
「うん、オレは向うのホームだな」

「まだ、ちょっと時間あるけ、どこかに座らん?」
「じゃ、あっちの待合室で待とうか・・」

ボクらは、コンコース内の待合室に入り座った。
そして、キップを見つめていた恭子が言った。

「うちの方が先やね、時間」
「そうだね・・じゃ、ホームで見送るよ」

「有難う」
「お誕生会からこっち・・うちの勝手で引っ張りまわしてしもて、ゴメンね?!」
「でも、本当に楽しかった」

キップを握り締めて、恭子はまた小さく泣いた。
「バカ言うなよ、楽しかったのは、オレも一緒なんだからさ」
「引っ張りまわされたなんて思ってないよ、オレ」

引っ張りまわされたにしても、こんなに嬉しくて楽しい旅だったんだから文句なんてあるワケないじゃん・・と恭子を抱きしめて言った。

「海に、蕎麦屋に・・京都だろ?」
「おばちゃんに出会って、ユミさんたちとも出かけられたしさ」
「夏の思い出がたくさん出来て良かったよ、オレ」

「うん、アンタがそう言ってくれたらうちも嬉しいっちゃ」恭子はそう言って、やっと笑って顔を上げた。

「そろそろ・・やね」
「うん、ホームまで行くよ」

ボクらは、下り方面のホームに向かうエスカレーターに乗った。
ホームは夏休みのためか、結構な人がいた。

そんな人々を眺めながら、恭子が言った。
「この人達の中では、多分、うちが一番寂しい乗客やろね」
「あはは、分かんないぞ?恭子」
「少なくともオレは、もっと寂しい乗客だしな!」

ゴメン・・と恭子がうなだれてしまったので、慌ててボクは言った。

「うそ、同じだよ、寂しさは」
「また遊びに行こうな、二人でさ」

うん、色んなトコ、アンタと行きたい・・と恭子が言ったとき、博多行きのひかり号が入ってくるとのアナウンスが、ホームに流れた。


博多行きのひかり号は、静かにホームに滑り込んできてドアを開けた。

大勢の客の乗り降りが済んでから、最後に恭子は乗った。
そして、ドアの縁に手をかけて涙目でボクを見つめて言った。

「忘れんでな?うちのコト」
「当たり前じゃんよ、心配すんな!」
ボクは笑って言おうとしたのだが、頬がヒクヒクしてうまく笑えなかった。

「アンタも、泣いてるっちゃ」恭子は泣き笑いの顔で言った。

「バカ・・元気でな?!」
「帰ったら手紙書くけね!」
「返事くれる?」

「うん、書くよ・・返事」
ボクがそう言った時、発車の合図があってドアがゆっくりと閉まった。

ドアのガラス窓の向こうで、恭子の口がゆっくりと動いた。
「だいすき」

ボクは「オレも・・」とだけ言うのが精一杯だった。

ひかり号が動き出して、ボクは二三歩追いかけたがすぐに追いつけない速さになって、恭子の窓は見えなくなった。

ボクと恭子の旅はこうして終わった。


東京に向かうひかり号の中でボクは、先週の月曜日からのコトを何度もなんども・・反芻した。

そうしなければ、寂しくて切なくてどうしようも無かったから。

お誕生会で告白されたこと、ボクの部屋での恭子に、海辺の恭子・・・。
恭子の部屋で聞いた彼女の過去、いきなりの寝台急行「銀河」。

そして、京都での出来事の数々。

場面場面で浮かんでくる、恭子の笑顔、泣き顔・・笑い声。
セックスの時の、怪しい小悪魔的な魅力の恭子。

さっきまで、あんなに一緒にいたのに、もう・・遠い。


窓の外を、沿線の景色が飛んでいく。
きっと普段なら、眺めて楽しいはずのその光景も、今はただ・・灰色の流れる模様でしかなかった。



           

                    第1部 完    (2部に続く)