笑撃・これでもか物語 in 歯医者
高見沢は虚ろながらも。映像を見入ってしまった。
「ロ−ズがアイ・プロミスって、痺れるよなあ。同じ溺れ死ぬのでも、歯医者の治療椅子の上で、歯石取り中に──溺死──するのではなく、こうカッコ良く彼女のために溺れ死にたいよなあ」
高見沢はほぼ放心状態。しかし、やっと死の淵から蘇生したのか、急に腹が立ってくる。
「なんだよ、歯医者の椅子の上で……『溺死』なんて、とんでもない話しだよ!」
そして、「もうテクノ歯科なんかには、絶対に来ないぞ!」とブツブツ独り言を吐いてしまう。
そんな時、若い先生が高見沢の所へ戻ってくる。そしてテキパキと歯を検査し、自信満々に仰るのだ。
「歯石、きれいに取れてますよ。これからこの海外での雑な治療跡を、日本のハイテク技術でやり直しましょう。しばらく歯石取りが続きますが、次回も……ナオちゃんに取ってもらいますから」
可愛いナオちゃんの歯石取り。しかし、それは溺死を宣告されたようなもの。高見沢はもう発する言葉がない。
そんな高見沢に、横に付き添っているナオちゃんから明るい声が飛んでくる。
「おチュかれチャまでした。次回をお待ちチてま〜チュ」
さらに、「決して、歯石取りを途中で、ネバ−・レット・ゴ−でチュね、あきらめないでくだチャイね。プロミス・ミー、約束して下チャイマチェ」と。
こんな励ましのお言葉を頂いた高見沢、ナオちゃんに聞こえないように、「歯石取りをあきらめないでねって、そんなプレッシャーをかけるなよ」とブツブツと呟いた。そして曖昧に、「うん、まあな……、多分な」と約束して、悪魔の治療椅子からゆるりと下りた。
その後、高見沢は次の来院約束カ−ドを無理矢理に渡されて、テクノ歯科を後にするのだった。
作品名:笑撃・これでもか物語 in 歯医者 作家名:鮎風 遊