笑撃・これでもか物語 in 歯医者
すると、今までモニタ−に映し出されていたタイタニックの映像は消え、高見沢の歯のレントゲン写真がモニタ−に映し出されたのだ。
それは当然のことだが、アメリカで抜き取った親不知はそこにはなかった。またメキシコで被せ直したクラウン(かぶせ)は、とうの昔に外れてしまっている。
画面はそんな状況をくっきりと映し出す。そして先生は画面上のカ−ソルを動かしながら、自信たっぷりに説明してくれる。
「高見沢さん、ここ少し黒くなっているでしょ、これ少し化膿してますね。これが痛むのですよ。この白くピカッと光っている細い線が神経です。それにしてもこの奥歯、おかしな治療がしてありますよね……、どこで治療されたのですか?」
高見沢はあまりのハイテクで唖然としながら、「ちょっとね、……、海外ですけど」と小さく答えた。
「ほう、海外ね。じゃあ、もう少し拡大してみましょ」
先生は画面の隅っこへカーソルを持って行き、またカチカチとやり出した。すると画面は段階的に大きくなって行く。
「ふうん、そうですか。今はそんな事までもができるのですね」
高見沢はこんなハイテクに驚くと、先生はさらに一生懸命デモしてくれる。
「そうなんですよ、これをちょっと見て下さい。見る角度、高さも変えられるのですよ、例えばですね……」
若い先生はもう高見沢のことは眼中にない。目がとんがるほど熱中し始めるのだった。
作品名:笑撃・これでもか物語 in 歯医者 作家名:鮎風 遊