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あの頃・・・それから

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 幸一「菜々、大丈夫か?かなり歩いたぞ?」
 菜々「全然平気だよ、絶好調!さあもう一息よ」
   巧一と幸一、顔を見合わせる

66・白駒の池

   三人、池に辿り着く
   目の前に広がる景色に息を飲む
 菜々「素晴しいわね」
 巧一「(カメラを出す)これは感動だ!」
   シャッターを切る
 巧一「二人とも並んで?」
   池をバックに撮影 
   次は幸一がカメラを構え菜々と巧一を写す
   色んな背景で写真の撮りあいをする
  
67・見晴らし場

   三人、お弁当を広げて池の景色を楽しんでいる
 幸一「菜々、来られて良かったなあ?」
 菜々「うん、巧一と来られて良かった。もちろんパパともよ」
 巧一「今度は冬景色に挑戦しよう」
 菜々「頑張るわ」
 幸一「本当は二人で来たかったんだろ?」
 菜々「そりゃそうだけど、巧一は車が運転できないから仕方ないわ」
 幸一「それはそれは、申し訳なかったなあ」
   三人、大笑い。
   菜々、立ち上がり池の淵まで行き水に触る
 菜々「(二人に向かって)ひゃー冷たい!夏なのにこんなに冷たいなんて信   じられないわ、巧一も来て触ってみて?」
 巧一「どれどれ」
   巧一、言われたとおりに触る
 巧一「(菜々を見て)本当だ!冷て!」
   菜々の顔に手に付いた水を掛ける
 菜々「やったわねえ」
   菜々もお返しする
   それを、微笑ましく見ている幸一
 幸一「良かった、これで良かった」
   思わずつぶやく
   ・白駒の静かな水面。
   ・爽やかな風が抜ける原生林
   ・透き通るような青空
   巧一の菜々撮りが始まる
   菜々の弾けるような笑顔

68・別荘・菜々の部屋=数日後=

   菜々、器具を付けて眠っているが時折うなされる
   医者が診察をしている
   それを見守っている巧一たち
 幸一「もう三日もこんな状態なんですが」
 医者「まあ、そろそろ判らなくなりつつありますねえ」
 桂子「薬が強いんですか?うわ言で変なことばかり言います」
 菜々「ハハハハ!そこにあるのはりんごでしょ?食べさせて?」
   菜々、何もない空間に手を伸ばす
   巧一、駆け寄り手を握る
   一瞬、目を開ける菜々
 巧一「菜々!」
 菜々「(視点が定まらない)ハーイ!誰でしょうか?そのりんご・・・」
   また、眠ってしまう。
 医者「やっと、薬が効きました。しばらく眠るでしょう。皆さん看護士が    いますのであちらへ行ってお話をしましょう」
 幸一「わかりました。(みんなを促して)」

69・リビング

   全員腰掛けて医者の話を聞いている
 医者「実はお嬢さん。この2・3日が峠です。明日、山村もこちらへ伺うよ   うになっています。」
 桂子「峠?」
   桂子、堪えていた涙があふれてきた
 幸一「とうとうですか?(涙が溢れてくる)そうですか、とうとう」
 祐介「巧一、ごめんな?でも有り難うな?」
 巧一「そんな、そんなことって・・・」  
   巧一、部屋を飛び出していく
 祐介「巧一!」
   呼び止めるより早く外へ飛び出していく

70・別荘地内=夜=

   あちこちの別荘の明かりが眩しい
   巧一、坂道を一気に駆け下りてくる
   しばらく、走り続けている
   溢れ出る涙を風に切らせて走る
   息を切らせて止まる
   その場に膝まづきうずくまって泣く
   そして、やり場のない気持ちでまた走り出す
   どこまでも、どこまでも

71・花・彩味・店先=数日後=

   入り口は花輪が並んでいる
   学生服の弔問客が列を作る
  
72・同・中

   祭壇の遺影には白駒の池で巧一が撮った写真が使われている
   その両脇で焼香者に一人ひとり頭を下げる幸一と桂子、祐介の姿
  
73・同=数十分後=

   安らかな菜々の死に顔
   涙をすする声
   一人ひとり棺に花を手向けていく
   棺が閉ざされる

74・同・店先

   棺は幸一と祐介と部員の手で霊柩車に納められる
   弔問客に囲まれる、霊柩車
   マリと弓、小夜が肩を寄せ合うように泣いている
   幸一の挨拶が終わり、長いクラクションの音と同時にゆっくりと霊柩車   は走り出す
   祐介、何かを探すように弔問客を見渡す
   
75・花、彩味・店先=数ヶ月後=

   無精ひげを生やした巧一が立っている
   手には赤いバラの花束を無造作に持っている
   意を決するかのように深呼吸を一回
   そして、店に入っていく、巧一
 桂子「(声のみ)良く帰ってきてくれたはね。お父さん!巧一君が帰ってき   たわ」

76・同・中

 巧一「(深く頭を下げたまま)申し訳ありませんでした。結局、約束を果た   せずに消えてしまって・・・」
   その場に泣き崩れる、巧一
   桂子歩み寄る
 桂子「何いってんの?ちゃんと約束は果たしたじゃない。あの子は幸せだっ   たわよ」
   そこへ幸一、奥から出てきて、巧一の肩も抱き立たせる。
 幸一「良く帰ってきてくれたなあ。有り難うよ。菜々も喜んでるよ」
 巧一「すみませんでした」
 幸一「何を謝ることがあるんだ?巧一君に辛い目に遭わせた我々が謝らな    きゃならないよ」
   巧一、顔を上げる
 幸一「さあさあ、菜々が待ってるよ」
   幸一、巧一背中を押して中へ向かわせる

77・菜々の部屋

   祭壇の周りに巧一の撮った写真がたくさん飾ってある
   じっと祭壇を見つめる、巧一
   背後に幸一と桂子
 幸一「ゆっくり、菜々と話すといい、我々は向こうに行っているからな?」
   巧一、会釈をして了解する
   白駒の写真を見つめる
 巧一「菜々・・・菜々・・・」
   溢れる涙を拭わないでいる
   巧一に笑いかける菜々の写真

78・店

   巧一、出てくる
   桂子が歩み寄る
 桂子「お父さんちょっと配達に行ったわ」
 巧一「そうですか、先輩は?」
 桂子「祐介が一番心配していたわ。でも本当にごめんなさいね?辛い思いを   させちゃって」
 巧一「いいえ。楽しい時間を過ごせて良かったと思っています。写真の菜々   の表情を見ていて感じました。あれで良かったんだって」
   巧一、頭を下げて出て行こうとする
   一旦立ち止まる
 巧一「あの、また菜々と話しに来ていいですか?」
 桂子「もちろんじゃない。あなたもウチの家族なんだから、いつでも帰って   きてよ?菜々が喜ぶわ」
 巧一「はい。有り難うございます」
   巧一、出て行こうと歩きかけたときに桂子が・・
 桂子「そうだ」
   巧一、背中で聞いている
 桂子「菜々ねえ、最期は家族のことさえ覚えていなかったのに、最期の言葉   は巧一君を呼んで逝ったのよ」
  巧一、そのまま彩味をあとにする
 
79・商店街

   秋色に色づいた並木
   人並みはまばらな道はいつもと変わりない表情を
   見せている。                   

作品名:あの頃・・・それから 作家名:Riki 相馬