あの頃・・・それから
巧一「まだ、人物なんて撮ったことないし、ましてや菜々ちゃんだから緊張 しちゃいそうです」
祐介「最初は誰でもそうだよ。だから慌てないでじっくり撮ればいいよ」
巧一「はい」
菜々「いい感じよね?」
祐介「ん?」
巧一「何が・」
菜々「この感じ」
菜々、ひとり満足そうな笑顔
巧一と祐介、顔を見合わせて首を傾げる
祐介「なんだか今日は女どもがみんな変」
巧一だけ首を傾げる
17・団地入り口・バス停
春の夕暮れ、薄暮の中バスが停まる
巧一、降り立つ
バス、走り出す
窓にシルエットの菜々と祐介、軽く振り返り巧一に手を振る
巧一も返す
見えなくなるまで見送る、巧一
団地の部屋の明かり
街路灯が点き始める
巧一、ポケットからメモを取り出して歩き始める
18・団地内
建物の最上部の番号が暗くて読みにくい
巧一、メモと番号を確認しながら歩く
巧一「ここだ」
ベランダから漏れてくる明かりをみて安堵の顔に変わる
巧一「おお、今日は帰ってるなあ」
小走りに入り口へ向かう
19・渡部恵美宅前
巧一、自信を持ってドアを開ける
巧一「ただいま。母さん。クラブ決まったよ・・・」
巧一、様子が変なのに気づく
靴を脱ぐのを止め、家の中を見回す
その時、若妻、渡部恵美27歳が中から現れる
巧一、決まり悪そうに靴を履きなおし出ようとする
恵美「あら、どうしたの?間違えちゃったのね?良くあることよ?」
巧一、振り返り頭を下げる
巧一「すみません。越してきたばかりなもんで・・」
恵美「待って!そのメモ見せて?」
巧一、そっと手を伸ばす
恵美、メモを受け取り見る
恵美「ああここね?あと2棟隣よ。同じような建物ばかりだから迷うわよ ね?」
巧一「はい。助かりました。有り難うございました」
巧一、出ようとする
恵美、再度呼び止める
恵美「良かったら、お茶でも飲んで行かない?ずっと独りで退屈してたの よ。ねえどう?」
巧一「いやーもう遅いので帰ります。すみません」
そこから10分ほど話し込んでしまう
恵美「そう?クラブは何に入ったの?」
巧一「写真です」
恵美「じゃあ今度撮ってもらおうかな?」
巧一「は?ええ・・」
恵美「私じゃ、モデル不足かしら?」
巧一「とんでもないです。キレイです」
恵美「じゃあ、今度ね?約束よ?あたしはいつでも暇してるから
いつでもチャイム鳴らして?」
巧一「解りました。じゃあ失礼します」
そう言い残すと巧一、出て行く
見送る恵美
恵美「必ずね?」
ニコリとする、恵美
20・団地内
巧一、一気に自宅へ走る・走る・走る
21・自宅前
巧一、郵便受けの名前を確認して家に入る
巧一「ただいま!母さん帰ったよ!」
声だけが響く
閉まる鉄の扉
22・美術館前・ハンバーガーショップ
数日後(日曜日)
弓、マリ、西川、三村、窓際でバーガーを食べている
巧一、入ってくる
アイスコーヒーを注文する
そこへ小夜が並ぶ
小夜「おはようカメラマン君」
巧一、驚く
巧一「小夜さんおはようございます」
小夜「(巧一のカメラバッグを見る)サッスガー!いいバッグじゃん?」
巧一「お父さんのお下がりですよ。中身も全部」
店員「アイスコーヒーMサイズのお客様。お待ちどうさまでした」
巧一、受け取るとみんなのところへ行く
後から、小夜もトレーに乗ったモーニングセットを持ってくる
小夜を見ると全員で挨拶
全員「おはようございます」
小夜「おはよう。みんな気合充分って感じね?タカポンはやっぱり来てない わね?」
西川「まあ。奴は奴なりの世界で生きていますからね」
マリ「それってどんな世界?」
西川「んーそうだなあ・・自然がお友達って言うか、やつ自身、自然児だか ら・・」
弓 「つまり、理解に苦しむってやつですか?」
三村「でもいい写真撮るよな?」
小夜「そうね。でもちょっと世界が狭い気がすわ」
巧一「でも、憧れますね。自分の世界観で写真が撮れたら・・」
そこへ、祐介と菜々現れる
祐介「いやー遅れてすまん。菜々の服選びに時間が掛かって」
菜々「すいませんでした」
西川「いいや、可愛ければ許しちゃいます」
マリ「今日はフェミニンな感じで春らしいわよ?」
小夜「じゃあ。出発しましょう」
全員、ごそごそと仕度を始める
祐介「孝雄はやっぱ来ないか?」
小夜「好きにさせればいいわよ」
祐介「巧一君が来たからオッケーだな?」
個々に店を出る
23・美術館庭園
木立ちに囲まれた庭園。あちこちにオブジェが配置されてある
菜々、オブジェのベンチに腰掛けている
それを取り囲むように部員たちがシャッターを切っている
巧一はみんなより少し下がってカメラを覗いてる
時たまシャッターを切る
小夜が横に来て話しかけてくる
小夜「撮れてる?」
巧一「まだ、10枚ぐらいです」
小夜「私なんかもう2本目に入ってるわよ」
巧一「そうですか」
小夜「菜々ちゃんに見とれてるばかりじゃダよ?」
そこへ祐介来る
祐介「まあ、慌てるな?そのうち慣れるさ」
巧一「はい」
祐介「(菜々に向かって)そろそろ場所を変えよう」
その言葉に全員引く
マリ、菜々に寄っていきメイクや服装を直す
24・オブジェ前
ジャングルジムのオブジェの前で立ちポーズで撮られている、菜々
相変わらず遠巻きにファインダーを覗いている、巧一
25・噴水前
部員それぞれ噴水の淵に腰掛け、ランチを広げている。
西川と三村、が熱く語っている
西川「菜々ちゃんはホントにいいよな?」
三村「俺たちは幸せだぜ?」
巧一、みんなより少し離れておにぎりを食べてる
隣へ祐介が来る
祐介「どうだ?納得いくのが撮れたか?」
巧一「いやー無理ですよ。まだまだ」
祐介「そうだろうよ」
巧一「でも、楽しかったです。モデル撮影っていいですね?」
小夜も巧一の隣に来る
小夜「仲間に入れて?さてこれからどうするの?」
祐介「菜々はもう帰す」
巧一「もう終わりですか?」
祐介「ああ、モデルも結構疲れるもんだよ、2・3時間が限界だよ」
小夜「物足りないんだ。私はこの辺ブラブラするけどお二人はどう?」
祐介「俺は菜々を連れて帰るけど?巧一君はどうする?」
巧一「そうですねえ、僕もブラブラしていきます。この辺をもっと知りたい し、独りじゃ迷子になるし、小夜さんさえ良かったら付き合わせてくだ さい」
そこへ菜々が来る
菜々「お兄ちゃん帰る?」
祐介「ああ、そのつもりだよ」
菜々「巧一君は?」
巧一「小夜さんと町を撮影しに行く」
作品名:あの頃・・・それから 作家名:Riki 相馬