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落書福太郎
落書福太郎
novelistID. 29161
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大江戸評判娘

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(二)

 
 おろくは、皆に頭を下げて出て行った。
湯屋にいる人々は、うっとりしながら、「おろくちゃんは、相変わらずきれいだね。湯上りはますます色っぽくなるね。」と、言った。
また、女たちの中には、「あの髪形、しゃれているね。今度真似してみようかしら。」と、言う者もいた。
 おろくが湯屋を後にしてからしばらくすると、
「おろくちゃん」と、声がしたので振りかえると、田助が息を切らして走って来た。
「あら、若旦那。どうなされたんですか。」
「夜道は危ないから、家まで送って行きますよ。」
「今日は、松太郎さんと一緒じゃないんですか。」
「松さんは、平吉さんと未だ二階で飲んでます。」
「二人ともお酒好きなんですね。」と、おろくは、田助のほうを向いて言った。
 田助は、今年は忍が岡の花見に、是非おろくを誘って行きたいとずっと思っていたので、今夜が誘いの機会といつ言おうかと考えていた。
 おろくの家に近づいた時、田助は心臓が高鳴るのを振り切っ て、
「おろくちゃん、今度の休みに、‘忍が岡’に花見に行かない?」と、なんとかおろくに聞こえる声で言った。
「うーん、ちょっと考えさせてください。田助さんが今度お店に来た時に、返事します。」
「おろくちゃん、じゃ明日お店に行くから。」
忍が岡は、上野の別名で当時から桜の名所であった。
 


 そうしているうちに、かおろくの家に着いてしまった。
「ただいま。」
フミが出てきて、「お帰り。」といった。
「おっかさん、若旦那に送ってもらちゃった。」
「若旦那、いつも、いつもありがとうございます。」
と、フミは小さな声で言った。
 おろくの父、太郎は、おろくに変な虫がつかないか心配で、おろくが連れて来る男にはめっぽう厳しく当たることで有名であった。
ましてや、夜酒を飲んでいる太郎はなおさらなのである。
そのため、フミは、田助が来たことを太郎に知られないようにしたのであった。
 田助も、そのことは十分知っているので、小さな声で
「おやすみなさい。」と、小声で言って、二人に別れを告げ帰った。
「おーい、誰か来たのか?」と、居間から太郎が怒鳴った。
「いいえ、おろくが帰って来たんですよ。」
「おとっつあん、ただいま。」
「おー、遅かったな。」
「おとっつあんとおっかさん、湯屋へ行ってきたら。」と、おろくは言った。
「じゃ、留守番しといて。」と、太郎とフミは湯屋に行った。


作品名:大江戸評判娘 作家名:落書福太郎