満月の夜
試験
月の光が窓から部屋の中に差し込んでいる。
俺はそれを見つめて目を細めた。
今日は満月の夜……人狼達が狩りをする日。
周囲の暗がりからギラリと光るいくつもの目がこちらを見ていた。
「……」
俺はカーテンを閉めて奴らの目を遮る。
見られているというのはあまり気持ちの良い物ではない。
「ふぅ……」
俺は深く息を吸い込んでから背後を振り返った。
俺の視線の先にはソファーに腰かけた最愛の彼女、エミリーの姿が。
そっと近付いて行って彼女の目を手で塞いだ。
俺のイタズラにエミリーはくすっと笑みを漏らす。
「ちょっとフレッド、前が見えないわよ」
そう言いながらもエミリーは抵抗しない。
エミリーはただ黙って俺の手を自分の手で包んだ。
彼女のぬくもりが手を通って伝わってくる。
へへっ、ラブラブ映画のカップルみたいだろ?
その時外から人狼達の吠え声が聞こえた。
何匹もいるためかさながら合唱のコーラスみたいだ。
「今日はやけに狼たちが吠えるわね」
エミリーが呟く。
それを合図にするように吠え声はさらに強くなった。
はいはい分かってるよ……。
「なぁ、エミリー。明後日は何の日か覚えてるか?」
俺の言葉にエミリーは可愛らしく笑った。
あぁ、彼女の仕草一つ一つが愛おしい。
「大丈夫。ちゃーんと覚えてるから☆フレッドの誕生日でしょ?」
そう……良く覚えていてくれたね。
「うん。それでさ……プレゼントに何かほしいなぁ……なんて」
自分で言っていて恥ずかしくなる。
普通プレゼントの要求というのは相手が何が良いか聞いてくるまで待つ物だ。
それを自分から言うなんて……まるでサンタクロースにおもちゃを頼む子供みたいだ。
自分の中に成長しきれていない部分を見つけ俺はつい笑みを漏らしてしまった。
「うふふっ。大丈夫よちゃんとあげるから!それで何がほしいの?」
「君の命……」
「え……?」
エミリーが聞き返す間もなく俺は大きく口を開いて彼女の首筋に牙を突き立てる。
鋭い牙が彼女の皮膚に食い込んでドロドロと血が溢れだす。
その血がどんどん俺の喉に流れて行く……。
「……!? %&#&#&!」
エミリーが悲鳴を上げるが、もう俺が口を塞いでいるため訳の分からないうめき声しか耳に入らない。
あぁ……それにしても本当にうまいなエミリーの血は。
愛する者……大切な者の血ほどうまいと誰かが言っていたけど本当みたいだな。
愛するエミリーの血はとても甘いイチゴの味……。
興奮した俺はさらに口を大きく開きエミリーの首筋に再度突き立てる。
するとまた先ほどと同じように血がゴボゴボと……。
俺はあっという間にエミリーの血を飲み干した。
「あぁおいしかった。本当にありがとうなエミリー。愛してるよ」
そう言って俺は青白くなったエミリーの頬にキスをする。
口を塞いでいた手を外すとすぐに彼女の体はグラリと崩れ落ちた。
あぁ……これで俺も一人前だ。
一人前と認められるようになるにはある試験をクリアしなければならない。
それは愛する者を殺し、その血を飲むこと。
大切な人を殺めて初めて一人前の人狼として認められる。
俺は喜びから思い切り吠えた。
俺の吠え声に反応して周囲から次々と遠吠えが帰ってくる。
それらはどれも試験を無事にパスした俺を祝福する言葉だった。