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はちみつ色の狼

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9 Good morning in Army.






朝起きると、彼がいた筈のそこは蛻の殻であった。

昨日、自宅についてから人の肩で眠りこけていたジンを自らのベットに寝かせて、ジャンは狭いソファーで眠ることにしたのだ。
ダンボールの中から洗濯をしたばかりの掛け布団を取り出して、一応匂いを嗅いで彼の上にかけたりと一応、気を使っていたのだが・・・。

今は、その場所は蛻の殻・・・。

ソファーで眠ったせいで身体は、がちこちでそこ等じゅうが痛む。
首を回すと大きな音がして間接がなった。

大きな欠伸を一つしながらソファーから立ち上がり、ベットに歩み寄る。

シーツも、掛け布団も綺麗に畳まれジンの存在も、昨日の出来事も何も無かったかのようにもと在ったであろう段ボールの上に積まれている。違うと言えば、しっかりと畳まれていることぐらいか。
そして、ベットの上に寝ながら腹を掻く。
昨日の出来事は本当は無かったのかもしれない。そう思うが、シーツには確かに彼がいたと言う証拠のいい匂い染み込んでいるように思えた。
これじゃ変態だなと苦笑しながら、自分はもしかするとただ人が恋しいのかもしれないと考える。2週間も彼女がいないのであれば溜まって当然である。
何気なく見つめた先には天井があり、天井には大分前にルイスが張って帰ったであろうトップレスの金髪美人が此方を見て微笑んでいる。

蛻の殻だからってなんだ!
・・・昨日だって、上司じゃなかったらそこら辺にほって帰ってるところだ!
それは本当なのか?
・・・ただ、上司だったからほって帰らなかったのか?
蛻の殻のベットを見て、少しなんだか寂しい気分になった自分がいるのはどうしてなんだよ?

事故とは言え、当たった唇からは柔らかさと暖かさを感じることができたが、あれは男だ。


「・・・まあ、とりあえずあの大佐は東部に帰ったんだし、考える必要もないんだよな・・・。」


ごろんと寝返りを打ち、窓の方へと向く。
昨日から締め忘れられていたカーテンの引かれていない窓の向こうには、昨日と同じくらいにまぶしいほどの太陽と青空がそこにはあった。

そう、今日もいつもとかわらない毎日が始まる。
自分は何時もどおりに仕事に行き、夜は酒場でかわいい女の子とお知り合いになる。
今の自分の感情は一時の気の迷いで、・・・気の迷いも何もただの人恋しさだし・・。

一瞬鼻に飛び込んできた金木犀の香りを振り払うかのように立ち上がると、ジャンはシャワーを浴びることにした。

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仕事場の時計は10時50分をさしている。

自分の仕事が一段落したのであろうか?ルイスは通りの席からこちらに来ると目の前の空いている席に座り込みジャンの顔を面白そうに眺めこんでいた。
しょうがなく演習の書類から視線をあげ、その面白そうな何かを含んでいるルイスの顔を見る。

質問は、昨日のクイーンの件。


「・・昨日は、どうだった?」
「お前こそ聞いたぞ〜、美人とヘンダーソンズに来たんだろ?!どう言う関係だよ!!紹介しろっこの!」


よくぞ話しかけてくれましたとばかりに口を開くルイス。
美人というのは、「ジン・ソナーズ大佐」を示している言葉とすぐに想像がつく。
確かに美人ではあるが、相手は男だぞ!とルイスに説明をするのもめんどくさいし、今朝の奇妙な感情も忘れたい今、説明をするとその前までのあらすじまで話さないと駄目であろう。
それはそれで、長い話になりそうなので避けたい。

「美人ねえ?なんのこと?」

と、とぼけたことを言いつつ、話を変える。

「・・それよりも、俺はお前とクィーンの話の方に興味ある!!」
「おっ、聞いてくれるの!!それがさぁ・・、」

そして、その話に乗ってきてくれるルイス。
クィーンの話はさして、面白くは無かった・・、ただちょっとおもしろかったのは、その為に行った筈のルイスがまたクィーンを見逃したと言う点。
彼によると、クィーンの決定戦はトルージャ広場で行われルイスがその場に付いた時点で大行列、なんでも整理券まで必要な大騒ぎになっていたようで知り合いがその中にいたとしても到底入り込むことのできないような人の込みようであったようだ。
行ったルイスはなんども踏まれた足が腫れ上がるを感じながらもその場に数十分いたらしいのだが、一向にもらえることの無い整理券を貰うよりもどっかで飲む道を選んだようであった。
ジャンは、その話に相槌を打ちながらも、心ここに在らずのように視線はルイスの後ろにある窓へと向いていた。

「・・・お互い、災難だったようだな・・。」

そうどちらとも無く呟くと、同じようにどちらとも無くため息を吐く。
二人は視線を合わせて苦笑しあうがそのうち、ジャンが口を開いた。

「・・・あ〜〜わりぃ、俺ちょっとトイレ休憩してくるわ、なんかあったら呼び出して。」
「あいよ〜。」

そういえば、朝一から一度も休憩をしていなかったことを思い出し、そして腰に常備されているトランシーバーを指差す。
ついでに珈琲、煙草に甘い物でも補給しておくか考える。
ルイスはというと、もうすでに自分の席のある方へと向かっていたのでジャンの声を聞いて背中越しに手をひらひらと振っていた。


よいしょっと言いながらジャンは立ち上がると部屋の外へと出て、トイレのある方向へと歩き出す。
トイレのある場所は、ジャン達の仕事部屋から少しだけ離れているがそこに行くまでに廊下をまっすぐに歩いていき給湯室や、お菓子の自動販売機などの目の前を通るなんだか所謂さぼりコースのような道を通っていく。

別段面倒くさくはない。
そこを通ることで、少しは気分が変わるのでいい、リフレッシュにもなる。
いつものように少し薄汚れた廊下を歩いていく。
そういえばこの兵舎の壁は全体的に薄汚れている。普段あまり気には留めないことであるが、昨日事故のあった研究棟の施設に比べるとかなり汚れが目立つ。
多分、こちらの兵舎はガテン系(体力系)の兵士の職場であまり汚れを気に留めることのない猛者が集まっているのが要因であろうか?
きっと研究棟には、綺麗好きな人間が集まるのかもしれない。
なぜだか研究棟の昨日一瞬しか見ていない眼鏡で清潔そうな人間達が壁を掃除している様子が思い描かれて少しだけ笑ってしまう。

そんなしょうもないことを考えながらジャンは少し猫背気味にゆっくりと歩きながら、何気なしに廊下の窓に目をやる。
窓の外に広がる青空とは別に昨日の事故の撤収作業なのか、同様に黄色の防毒スーツに身を包んだ人間達がそこらをうろうろとしていた。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央