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はちみつ色の狼

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びゅっ言う大きな音を立てて突然の突風が、二人を包み込む。

この季節にしては珍しく少し冷たい風が時折吹き、
だが、すぐに湿った暖かい風が頬を撫でる。

なんとも、変わった風だ。
今日の朝にもこんな風が起きていたけど、なんだかまるで何か起こりそうな感じだな?ジャンはそう思いながら空を見上げる。
空は、今日の大祭を待ちわびているかのように晴れ渡り、雲ひとつ見当たらなかった。
あの風が昼ごろにあった雲を吹流したのかもしれないと思い、少しだけ感謝をする。
先ほど、わかったと呟いたジンの方へと向き帰るが彼は先ほどから一歩も動いた様子がない。
足もそのまま、腰もベンチに落ち着けたままであり、ジャンの手もジンのそれをぎゅっと掴んだそのままであった。
見た目なんとも、すべすべで男の物では無さそうな手。
ジャンの大きくて無骨な演習で傷だらけの手に包まれたその手は元のサイズよりももっと小さく見える。
今日何度も思ったことだが、匂いといい、この手といい、顔といい、本当にそん所そこらの女子よりも綺麗で笑顔もかわいい。
だが残念な事に男で、もし、これで彼が女であれば命を掛けても自分の物にしようとがんばるのにと思わずにはいられない。
髪の毛の黒い色は、この地区では異色でエキゾチックな雰囲気を醸し出し、白い素肌に良く生えている。

だが、男である。

ジャンと同じ男なのである。

ジロジロと眺めているのに気がついたのか、ジンは気まずそうに俯いて小声で呟く。

「離してくれるか?」
「・・・・あ、すんません。」

するりと手を離した自分の心の中に、少しだけだが「残念、もう少しだけ」と言う気持ちを見つけるがここ2週間女日照りの男の困惑めいた考えだろうと
ジャンはため息を吐きながら、彼の手を握り締めていた方の自分の手をギュッと握り締めてもう一度ジンに特別の笑顔で向き直る。

「あ・・・のぉ、大佐いきましょうか?ね、遅いですし。」
「・・・・うん、わかってる。」

呼びかけると、今気が付いたかのようにのろのろと立ち上がり、車の止まっている方へとこれまた同じようにのろのろと進んで行き自ら扉を開けて後部座席に座る。
ジャンは、相手が大佐と言う立場上、自分が扉を開けるべきだったのだろうか?と思いつつも、今日はこの人のお守りをするのだ扉くらいは自分で開けさせようとそっと誓う。
自分も、そんなジンの後を追うように運転席に座るとシートベルトをきちんと締めて、後ろにもベルトを締めるように促す。
ジンは、なんの不平も不満もなくベルトを締めると締めたぞとばかりに、此方に見せるようにした。

「はいはい、よく出来てますよ。」

「・・・ずっと言いたかったことなんだが、いいか?」

「いいっすよ??なんすか?」

駐車していたスペースからゆっくりしたスピードで運転しながら、ミラー越しに首を捻る。


「なんで、お前はそう敬語がへたくそなんだ??」

そうジンにずばっと言い飛ばされ、ジャンはがくりと来る。
自分でもそれは気がついていた、昔違う上司にこっぴどく怒られたことがあったがそれでも直りはしなかった。
ミラー越しに見る彼は、話を止めることは無くまだ続きを話ながら、後部座席スーツの上着を脱ぐと白いシャツの袖をめくり始める。


「お前の上司であるエレノアは何にも言わないのか?俺が上司なら減俸ものだがな。西部は人情深いのか、上司も情に厚いのか俺には理解がしかねる。」
「・・・。」
「俺が若い頃ならお前剣の錆になってもおかしくないぞ、あと・・・」


エレノアにも言われたが、今はもう見放されたのか公認なのか、この敬語もどきは許しを乞うているように思えたのと、
若い頃とは、何時代だろうか??この男とはあまり年齢は変わらないように見えると、さっきとは反対に首を捻るジャン。


「さっぱりわからんのは、この兵舎の規則だ。今日の事故だってX線の写真を完璧に確認すればこんな事にはならなかったのに。」


本質がお喋りなのか、ただ自分の言いたいことはいうタイプなのかすばらしく早口で話して行くジン。
それを眺めながら車を一度路肩に止めるジャン。

「え、と。」
「いや、答えはいい。だいたい想像がつく。」

答えるのを遮られてこのやり場のない感情をどうすれば良いのかと考えているが、ジンはもう違うことに意識を移したのか話を変える。
車のエンジンは未だに大きな音を立てている、中にいる二人の身体は時折その振動で小刻みに揺れる。

「どこの店に飲みに行くんだ?この近くか?」
「・・・はあ。」

自分の話ばかりで人の話はあんまり聞かない男は、ふ〜んと鼻を鳴らして窓の外を眺める。

「店は、ここから10分くらいのとこっすよ。」
「・・・・うん。」

自分の興味の無い話なのか、腹八分の反応をする彼のその反応に頭をぽりぽりと掻き、車のハンドルを道の方へと戻しながらジャンは呟く。


「あと、大佐とか少尉は無しですよ。そんな堅苦しいような呼び方できない飲み屋なんで。」
「・・・・?」


ミラー越しに見えるジンの表情は少し驚いているようにも見える。大佐と言う身分の人間は多分そういう類の店には生まれて一度も足を運んだことがないのであろう。
ジャンは、内心にやりとする。

気分は、形勢逆転。

手に握られたハンドルをぎゅっともう一度力を込めて握り直すと思わず苦笑が漏れ出すジャン。


「・・・・そのパブの人間は上司嫌いで大佐とか少佐とか位の付く人たち嫌いなんでその辺よろしく。」
「わ、わきまえておこう。」


ジンから顔が見えないのを言いことに、苦笑しながらでも声は真面目に答える。
すると、どもったような声で答えが返ってくる。


「その言葉使いが、なんかね。」
「解ってる・・・、」
「俺のことは、ジャンって呼んでください。俺は、名前で呼ばせてもらいます。」
「・・・・わかった。」
「では、・・・じゃあ車を駐車場に戻すんでそれにも付き合ってください。」
「・・・わかった、ジャン。」


散々困らせるような事をいいながらも、ジンが素直にジャンと自分の名を呼んだのを聞いて、少しどきんと胸が躍る。

「?」
「どうした?」
「な、なんでもないです、ないです。」

さきほどのジンのようにどもってしまう自分の声。
なんなのだろうか?ただ名前を呼ばれただけなのに、胸が痛い。

「ジャン・シルバーマン?」
「・・・・?」

今のは、痛くはない。
なんか、悪い病気とか変な物食べたとかそんなところか???
ジャンは、ハンドルを持つ手を片方放すと先ほど痛んだ所へと持っていき、ゆっくりとさすり自分に言い聞かせるように小声で呟いた。

「・・・・なんでもないです、ほんと。」

車は駅のコンコースを出ると、すぐ近くの駐車スペースに滑り込む。

そして、二人はジャンの行きつけのパブ「ヘンダーソンズ」に足を向ける。
別段、大佐本人が何か食べたいと言うわけもなく、折角の大祭の日に何も飲まないのもあれなので、西部でしか味わうことのできない
珍しい酒を出すと言う事と、食べ物も人もいいそこに行くことになりそれならという事でそこになった。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央