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はちみつ色の狼

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最初はルイスの睨みに威圧されていた軍曹だったが、ジャンの笑顔で恐怖感は消え自分迄もいつもの大きな声で話をしだした。


「例の新人の演習の件、今日の2時からみたいです。」


いや、その話今じゃなくてもよかったろう?と突っ込みどころ満載の話題であるが、その内容が気にならなかった訳でもなかったので、ルイスも別段制止はしない。
ルイスも気になってはいたのだろう。
軍曹は、誰の制止も受けないのを言い事にそのまま話を続けている。


「なんだか降りそうだから案外、汽車で良かったんじゃ無いかって。」
「雨?」
「ええ、今日これから振りそうなんですよ、」
「へぇ。」
「そう言えば今夜から大雨になりそうだって、ジャンの読まない新聞に書かれてたよ。」


新聞読んでないという指摘については、そのまさかだけどな。
ルイスの嫌味には慣れないと耐えていけないわ。
机に肩肘をつきそこに顔をもたげさせながら何気無しに見た窓の外は何処から出てきたのかどす黒く分厚い雲で青空を隠そうと風に乗ってやってきた。
朝にはそんな事も感じさせない位にかんかん照りであったのに、今はどこへやら。

まぁ、雨が降れば砂嵐も起きないし、暑さも凌げる。
ただ、湿気と雨独特の暗い雰囲気は付いて回る。

ベッドの中にいる時の雨の音は眠りを誘い好きだが、日中の雨はただ気が滅入るだけ。
まだ降ってこない雨がまだ来ていない未来の時間の自分の気持ちを参らせる。
瞳は今まさに来ようとしている雲に向け、ジャンはゆっくりとため息を吐いた。

・・雨降らなくてもいいのになあ。

ぼんやりそう思いながらルイスを見る、すると彼もジャンと同じように空を見上げていた。


「嫌だな、雨って。」


次は口に出す。


「そうだよね、でも降るなら今だよ。」


いつもなら髪のカールが広がるとか文句を言うくせに今日のルイスは一味違う。
ジャンは思わず丸い目でルイスを見ると、ルイスは何?と訝しげに視線を返しながら口を開いた。


「そうじゃなきゃ雨の中、夜の土木作業なんか最悪だからね。」
「・・・なに・・、??」
「ジャン?あ、もしかして・・・・、」


ルイスからの冷たい視線。
一瞬脳みそを回転させて何事か思い出そうとするが何気なしに見た机の上でジャンはヒントというよりも答えを見つけた。
それは昨日の夕方過ぎに受け取った任務の書類、そしてそこには『下水・汚水パイプの修理作業および清掃』の文字。
ジャンは、その書類を思わず掴みとると頭を抱えた。
昨日の仕事終わりに飲みに行ってから、すっきりすっかり忘れていた。


「・・今日4時からだった、・・忘れてたわ。こんなの・・・。」
「だろうね、雨が作業前に降ったら流石に雨天順延だろうし、書類整理も出来る。作業初めからの雨ほど最低なのは無いからさ、早く降らないかな。 」


改めて窓の外を覗くジャン。
作業が終わるのは早くて4時間位。
ルイスの言う通り、心機一転、雨降らないかな。


今日なら雨も悪くない。


「雨、ふれ!」


ジャンは、窓の外の黒い雲にそう呟いた。





・・・つづく
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央