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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第六回・弐】感情性長期

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「京助! お弁当忘れてるっちゃッ!;」
ドタドタという廊下を力いっぱい走る音は年中平日変わらずの栄野家の朝
「きょ…何してるんだっちゃ? ちこ…」
玄関先で止まっている京助の背中を発見した緊那羅が弁当箱を持って話しかけようとして京助と同じように止まる
「俺も行く」
「慧喜さんは駄目だよ; 僕より大きいもん;」
「俺も行くッ!」
慧喜が少し大きい服を着て悠助の手を掴んで悠助と何やら言い争っている
「…何してんだ;」
京助が声を掛けると慧喜と悠助が京助を見た
「あ、義兄様」
慧喜に【義兄様】と呼ばれ京助が再び止まる
「あ?; 何だソレ;」
京助が慧喜に聞く
「ヒマ子義姉様が京助のことはそう呼べって言ったから」
慧喜がさらっと笑顔で言った
「旦那の兄弟は様を付けて呼ばないと駄目なんでしょ?で、ヒマ子義姉様は京助…義兄様の奥さんだから義姉様」
「はぁッ!?;」
慧喜の説明に京助が疑問系の声を出した
「慧喜さん僕もう行かなくちゃ…遅刻しちゃう;」
慧喜に掴まれている腕を軽く振って悠助が訴える
「…どうしても駄目なら行ってきますの…」
慧喜(えき)が少し顔を赤らめて目を閉じる
「…緊那羅回れ右」
京助がそう言って後ろを向くと緊那羅も同じく後ろを向いた
「…ラブラブだっちゃね;」
緊那羅が呆れたように笑う
「いってきますッ!」
ガラガラという玄関の引き戸を開ける音がして悠助が学校へ向かって家を出た
「早く帰ってきてねッ!」
慧喜が悠助に向かって叫ぶ

悠助と離れるから【空】に帰りたくないと駄々をこね通して慧喜が栄野家に居座るようになって三日目
毎朝同じような悠助と慧喜のやり取りはほぼ日常茶飯事となってきていた
「…じゃまぁ俺も行ってくるわ;」
京助が靴のつま先をトントンと床に当てて履くと緊那羅が弁当箱を手渡す
「滑って転ばないように気をつけてっちゃ」
そのやり取りを慧喜がじっと見ている
「…何だっちゃ慧喜?」
慧喜の視線に気付いた緊那羅が慧喜を見ると京助もつられたのか慧喜を見た
「アンタ等は行ってきますのちゅーとかしないの?」
「はッ!?;」
京助は弁当箱を床に落とし緊那羅は目を大きくして同時に言った
「何だか本当夫婦みたいだし? 義兄様二股?」
慧喜が二人を見ながら言う
「お前なぁ…;」
落とした弁当箱を拾いながら京助が呆れたように溜息をついた
「じゃあ緊那羅も義姉様?」
慧喜が緊那羅を見る
「…私は男だっちゃ;」
緊那羅が言うと体を起した京助が緊那羅を見た
「…いやお前もっと他に突っ込むべき箇所があるだろう;」
鞄に弁当箱を入れふと顔を上げた京助が止まった
「京助?」
「義兄様?」
緊那羅と慧喜がほぼ同時に京助に声を掛け京助が見ている方向にゆっくりと体を向けた
「…あ…義姉様;」
「ヒマ子さ…ん;」
そこにいたのは真冬に咲く可憐な(?)向日葵ヒマ子さん
「…誰と誰が夫婦なのですか?」
嫉妬の炎がいい具合に暖房となって玄関の温度が上昇していく(様な気がする)
「い…いってきますッ!;」
逃げるように京助が玄関を出る
「いってらっしゃいだっちゃッ!;」
後ろを振り返らずに戸を閉めた京助に緊那羅が声を掛けた