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折り紙の花束

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「おや? どうしたのかな?」

 ぼくは慌てて涙を拭って、後ろを振り返った。
 振り返ると、そこには優しい顔をした園長先生がいた。

「あ……えんちょうせんせい……」

「どうしたの? ケンカでもしちゃった?」

 園長先生は優しい顔を崩さずに、ぼくの方へと近づいてきた。

「うん……けんかじゃないけど……」

 ぼくは土で汚された花束を、園長先生へと差し出した。

「つくったの、こわされちゃったの」

「あらあら、それは悲しいね」

園長先生は少し顔を曇らせて言った。

「誰かにあげるつもりだったの?」

ぼくは頷いた。

「うん……。さおりせんせいにあげようとおもってたの。でも、こんなになったしもうあげれない……」

 そう言うぼくにぼくの目を見ながら園長先生は言った。

「そんな事無いよ。折角作ってくれたんだもの。さおり先生だって喜んでくれるわよ」

「うーん……。そうかなぁ……?」

 ぼくはまだちょっと不安だった。
 けれど、園長先生は続けて言ってくれた。

「うん、そうよ。大丈夫、もう一回さおり先生の所に行ってみたらどうかな? きっとさおり先生も何があったのかな? って心配してるわよ」

「うん……。ちょっと行ってみる。……えんちょうせんせい、ありがとうー」

ぼくがお礼を言うと、園長先生は先生には負けるけど優しい笑顔で言った。

「いえいえ、どういたしまして」

 ぼくは園長先生に手を振ると、再び先生の元へと向かう事にした。

***

先生はさっきと同じ所でさっきと同じ子と遊んでいた。
 ぼくはしばらく遠目から先生の様子を見ていたけれど、手に持った花束を見て覚悟を決めると先生の元へと近寄って行った。

「……せんせー」

 ぼくはいつもの半分くらいの大きさの声で先生を呼んだ。

「あっ……、コウ君!!」

「…………」

 駆け寄ってきた先生の目を見れず、ぼくは花束を後ろに隠しながら地面を向いてしまった。

「コウ君、さっきは大丈夫だった?」

 先生はとても心配そうにぼくの顔を覗きこみながら尋ねてきた。

「うん……。大丈夫だった」

 ぼくは下を向きながら、答えた。

「そっか、良かったぁ……」

先生はとても安心したように、肩の力を抜き微笑んだ。

「あ、あのねっ、せんせい」

ぼくはそんな先生に、勇気を出して声をかけた。

「ん?」

 先生は一度安心して気が抜けたのか、いつも通りの顔でぼくの言葉に首をかしげた。

「こ、これっ!!」

ぼくは後ろに隠していた花束を、すばやく先生の前に出した。

「さっき、ちょっとよごしちゃったけど……」

 そこまで言い、ぼくはどう続けていいか分からずに下を向いた。

「……せんせいに」

 そこまで言ってそっと顔を上げ先生の顔を見ると、先生はちょっと驚いた顔をして

「先生に作ってくれたの……?」

 と、ぼくの顔を見た。

「うん……」

 ぼくは先生の顔を見たまま頷いた。
 そして先生はぼくの顔を見て微笑んで言った。

「ありがとう。先生、凄く嬉しいよ」

 そう言って、差し出した花束を受け取ってくれた先生の笑顔はぼくの大好きな笑顔だった。
 だから、ぼくの方まで嬉しくなってぼくは言ったんだ。

「せんせい、だいすきだよ」

 って。
 それに、先生も笑って

「先生もコウ君の事大好きだよ」

って言ってくれた。
 でも、ぼくはその先生の好きが本当の好き、じゃない事は知ってるんだ。
 けれど、今はその好きでも良いんだ。

 いつか、ぼくが大人になったら本物の大きな花束を先生にあげるから。
 先生、その時まで待っててね。

‐END‐
作品名:折り紙の花束 作家名:鈴音