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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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「帆波には帆波の用事があるんやさかい、あんたは口出しせんでよろしい!」
 言いながら祖母がツイと姉の車椅子を居間から外へと移動する。
「行くぞ!」
 車の準備を終えた祖父の声が玄関先から聞こえ、三人も慌てて後を追った。

  
 徒歩十五分の通学路。車だと五分で到着。路地と少し広い道路を通って小学校へと辿り着く。正門は狭い路地に面している為、航達三人は路地の手前で降り祖父母と姉は広い通りに面している裏門から学校へ入る事となった。
「俺等も裏からで良かったんじゃね?」
 小学校の正門をくぐりながら慎太郎が航に問い掛ける。
「参加者の集合場所が正門側やねん」
「“職員室前”……」
 奏が手書きコピーの【地蔵盆ライブ参加者の皆様へ】と銘打ってあるプリントを開いた。
「職員室のある校舎がこれやから……」
 と目の前の校舎を指差しながら、航が先導して歩く。
 正門を入ってすぐに三階建ての校舎が横長に視界一杯に広がっている。丁度目の前、校舎のやや中央の一階部分が抜けていて、そこから校庭が見える。その校庭の向こうにも少し小さめの校舎がある。その校舎と校舎の間に体育館兼講堂。南に大校舎、西に体育館、北に小校舎と校庭をコの字に囲むように建物が建っている。航の説明によると、奥の校舎は五・六年生の校舎になるらしい。何度か旧校舎から新校舎への建て替えを繰り返している内に、妙な構造になったというのだ。
「で、左行くと、下駄箱。右行くと、一階に職員室と保健室」
 二・三階はワンフロア続いているのでそのまま教室。そして、職員室側には地下があり、そこに図書室があるのだという。
「俺が卒業してからまだ五年やから、変わりないと思うで」
 クルリと辺りを見回して右側の入口を開けると、確かに【職員室】と銘打ったプレートがある。そのプレートの部屋の前で、プリントを片手にした男性が参加者の名前をチェックしていた。
「……えー……。次は……?」
「北舟岡町、堀越です」
 男性のプリントを覗き込みながら、航が自分の名前を指差す。
「はい。堀越、と」
 ○印を付けた男性のペンが止まる。
「……堀越……?」
 掛けていたメガネの位置を直し、航の顔を見る男性。
「……堀越……航……か?」
「はい」
 頷いた航も男性の顔を見る。
「あーっ! 先生!!」
「航か!? ホンマか!?」
「俺、俺! 先生、まだ居ったんやぁ」
 どうやら、航の小学校の恩師らしい。
「なんや……その……色々あって、転校したって聞いとったけど、どうもないんか?」
「うん! 普通に高校行ってる」
 “色々”あった時、マスコミやらの関係で大っぴらに見舞いに行けなかったのだと言う。
「なんや、明日は一人でなんかするんか?」
「んーん。友達と三人でやんねん」
 航に紹介され、先生と慎太郎・奏が挨拶を交わす。
「航、後でゆっくり話そ」
 航の肩を叩いて、先生が次にやってきたメンバーのチェックを始め、その向こうにワラワラと集まっている集団に三人は紛れ込んだ。
 やがて、参加者全員が集まり、その集団を引き連れて先生と今回の責任者の町内会役員数名が揃って講堂へと向かった。
 当日はパイプ椅子を用意するらしい。ざっと、百五十座席は用意出来るだろうとの事だ。各々の子供会が町内会の枠を超えてPR活動を展開しているから、それ位は集まるだろうと踏んでいる。
「近年にない、賑やかで楽しい地蔵盆にしたいんやわ」
 と代表のどこかの町会長が参加者を見渡して言った。
「どこまでの機材を準備してもらえるんですか?」
 中学生位の男子の手をあげての質問に、
「なんやったかいな……」
 年配の代表者が、隣に居る若い役員から耳打ちされる。
「アンプ? ……やら、マイクやらはこっちで用意でけるさかい。みんなは、自分の楽器だけ持ってきてくれたらええ」
 そこへ、今度は小さな女の子がモジモジと代表者の服の裾を引っ張る。
「なんや、お嬢ちゃん?」
 スッと少女の目線までしゃがみ込む代表者。
「あのな……」
 少女がひそひそと代表者に耳打ちする。
「そらそうやな!」
 代表者が笑い出す。
「ピアノは持って来れへんよって、そこのグランドピアノを使うて下さい。明日は、自分の時間に間に合うように来てくれればええさかいに。……後は……」
 説明に疲れたのか、フゥ……と溜息をつくと、横に付いていた若い役員の肩を叩く。
「後は、こっちの若いのに聞いてんか」
 そう言って、三脚ほど用意されているパイプ椅子に座り込んでしまった。
「ほな、補足します」
 “しゃーないなぁ”と笑いながら若い役員が説明を交代した。
「あれ? ……猪口、さん?」
 慎太郎が航を突付く。
「うん。ウチの町会の役員やもん」
 ライブの情報も彼から聞いたのだ。
「近所の人?」
「帆波さんの彼氏」
「そ、そーなの!?」
 奏の突然の大声に、慎太郎と航が慌てて奏の口を塞いだ。
「なんや? 質問か?」
 プルプルプルと首を振る三人。
「えーと……続けます。ここの使用許可は今日から取ってありますから、家で練習とか出来ひん人や行き成り当日の本番では不安な人は、互いに譲り合って、ここで練習してもろても構いません。但し、ケンカになったりしたら、ライブは中止になるさかい、そこいらへんは持ちつ持たれつでやって下さい」
「どうやって?」
 中学生くらいの女子の質問に笑顔で答える。
「そうやな……。小さめの音で練習するとか、お互いに聴き合うとか……。ピアノなんかは、自分の家のと勝手が違うと弾きにくいと聞きました。僕は、よう分からんのやけど……。ピアノの練習したい人、居てるかな?」
 すると、先ほどの少女を初め、チラホラと手が上がった。
「ピアノも今日から許可を取ってありますから、順番に使うてもろて結構です。……と、こんなもんかな……」
 猪口氏がメンバーを見渡す。どこからも声も手も上がらない。
「ほな、僕ら役員は時間までここに居ますから、各自、仲良く練習して下さい」
 猪口氏の一礼で、参加メンバーが散り散りに走り出す。既に楽器を持ってきている者は練習を始め、そうでない者は帰る者もいたり、楽器を取りに戻ったり……である。
「航くん達、練習は?」
 猪口氏が微笑みかけてきた。
「家で十分済ませてきたから、今日は下見」
 どんな子達がどんな演奏をするのかを見に来たのだ。
「慎太郎くん、久し振りやね」
「お久し振りです」
 慎太郎がペコリと頭を下げる。まともに会うのは二年振りだ。
「こちらは……。初めてやね」
 その言葉に“そっか!”と航が慌てて紹介する。
「ウチのキーボード担当の藤森奏くん」
「奏くん……。航くんとこの上手(かみて)の帯屋の猪口です。よろしく」
「藤森奏です」
 猪口氏の差し出した手に奏が手を添える。舞台上では、さっきの少女が母親に付添われてピアノを弾き始めたところ。奏の視線がそちらに動く。
「……どうかした?」
 猪口氏が首を傾げる。
「どうしたの、ユカちゃん?」
 舞台の上で少女の母親も首を傾げている。
「……変やの……。ピアノ、ちゃうの……」
 上手く説明出来ない少女に、母親が戸惑う。
「猪口さん、ピアノの調律は?」
 奏が猪口氏を見上げた。