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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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 父の言葉に母が笑顔で頷く。立ち上がった航が奏に手を伸ばし、その手に奏がパンッ! とハイタッチ。満面の笑顔で椅子へと座る。
「そうや!」
 紅茶を飲みながら、航がハタ! と藤森母を見た。
「藤森先生。玉子焼き、作れますか?」
 失礼かつ唐突な質問に慎太郎が咳込み、
「家じゃ“おばさん”でいいのよ」
 と、藤森母が笑う。
「……玉子焼き、って?」
 作れるけど……と藤森母。
「今、ちょっと、弁当の時間に論争になってるんですけど……」
 深刻に語る航。その頭にコツンと慎太郎のゲンコツが落ちてくる。
「ただ、がっついてるだけだろーよ!」
「論争になったやん!」
 なったのは、航と石田の二人だ。
 “論争って言わねーよ!”“家庭の味論!!”と言い合う二人を笑いながら、
「四人分用意すればいいのかしら?」
 藤森母がクスクス笑う。
「はい!」
「お前は……」
 エヘヘと笑う航。“すみません”と頭を下げる慎太郎。
 お茶を飲み終わり、二人は藤森父の車で送ってもらったのだった。

  
 翌日、奏は登校してきた。早くに着いたらしく、校門の所で航と慎太郎を待っていたのだ。手を振る奏に、航が走りよりその額に手を触れる。
「うん。大丈夫!」
 一人頷く航に、奏が首を傾げた。
「何?」
「昨日、二曲も弾いたやん? それで、また熱出したら大変やから」
 エヘヘと笑う航の笑顔に奏での胸(こころ)が痛む。先日は“熱”ではなく“発作”だったのだ。
「あ! 俺、日直!!」
 “先行くな!”と航が走り出す。
「……て事だ」
 航に手を振りながら、慎太郎が言った。
「……うん。……ごめん……」
 同じく手を振りながら、奏が慎太郎を見る。
 ――― 昨日の帰り、藤森父の車に向かう廊下で慎太郎が航の後ろを歩く奏の肩に手を掛け、引き戻した。
「藤森。嘘を見逃すのは、今回だけだからな」
 小声で、それでもしっかりとした口調で囁く。
「え?」
「発作」
「……知ってたの……?」
「さっき、ご両親から聞いた」
「……心配、かけちゃいけないと思って……」
「“嘘”ついたって心配には変わりないんだからな」
 去り際、ポン! と奏の頭を叩いて、慎太郎は帰っていった。
 航の表面に出る“心配”を目の当たりにして、反省する奏。それと同時に、慎太郎も心配してくれていたのだと思い知る。
 隣を見ると、複雑な表情の慎太郎が見えなくなった航から奏に視線を移したところだった。
「……なんだよ?」
 感情をストレートに表す航とは真逆で、慎太郎は不器用なのだ。
「“友達”って、いいな。って……」
「ケッ!」
 照れる慎太郎に奏がクスクスと笑う。
 ようやく着いたくつ箱。サッサと履き替えて、二人は教室のある三階へと急ぐのだった。
 
  
「祖母ちゃんのが“ダシ巻き”で、シンタロんちのが“塩味”で、ミカちゃんのが“ほんのり甘味”で……」
 並べられた玉子焼きを見ながら出された順に航が解説中である。
「……で、奏んちのは?」
 巾着に入れられた弁当箱を見ながら、航が“ワクワク”、石田が“ドキドキ”。
「“ダシ”も“塩”も“砂糖”もあるって母に言ったら、変に張り切っちゃって……」
 開けられた弁当箱の中には、ふわふわのオムレツ。
「“洋風”だって言い張って……」
「「美味(うま)そ〜っ♪」」
 航と石田が同時に唾を飲み込んだ。
「チーズオムレツだよ」
 奏の説明も終わらぬ内に手を伸ばす二人。
「これ、得意なんだって……」
「「美味〜〜〜っ!!」」
 満面の笑顔で頬張る二人を見て、奏が笑っている。
「がっついてんじゃん」
 呆れる慎太郎。ふと、その手元におにぎりしかない事に気付く奏。
「飯島くん。おかずは?」
「母さんに玉子焼きの話をしたら、張り切っちゃってさ」
 そこはどこの母も同じである。
「……で、玉子焼きで燃え尽きやがった……」
 ここが一味違う、飯島母。
「仕方ねーから、握ってきた!」
 慎太郎のこの言葉に、
「「「えぇえーーーっ!!」」」
 三人驚愕。
「シ、シンタロ……自作?」
「おうよ!」
「どうりでデカイと思った」
「俺の手サイズだかんな!」
「ていうより、飯島くん、作れるんだ……?」
「なんだ、その疑問は?」
「いや……、ほら……、だって……、ねぇ?」
 目の前の二人に奏が助けを求める。
「俺と飯島は作れなさそうじゃん、キャラ的に」
「“キャラ的”って、何だよ?」
「俺もムリ!」
 航が言ったところで、三人の視線が奏に向けられる。
「藤森って……」
「出来そうだよな、料理」
「奏、作れる?」
「うん。簡単な料理なら……」
「やっぱりかぁ!」
 石田が自分の弁当の中からタコさんウインナーを一本、慎太郎の玉子焼きの横に置きながら頷いた。
「作れるんやぁ……」
 “凄いなー”と、航が自分の煮物を半分慎太郎へと渡す。
「それくらい出来ないと……って、両親が……」
 恥かしそうに笑いながら、奏がミートボールを移動させた。“ごちそうさまです”と頭を下げる慎太郎。
「……てか、航。自分の嫌いな物を俺に押し付けてんじゃねーよ!」
「え?」
 とぼけてみせるが、航の目はどうみても泳いでいる。
「そっちの唐揚げよこせよ!」
「い・や・や!」
 伸びてくる慎太郎の箸を弁当箱ごとよける。そのやりとりを見て、石田がピンとくる。
「堀越んちの唐揚げって……美味い?」
「おぅ! 隠し味の生姜が、格別でさ」
「それ、いただきっ!!」
 ポン! と手を打つ石田。他の三人が首を傾げた。
「月曜は“唐揚げ祭り”な!」
 石田の宣言に、
「賛成〜っ!」
 航が手をあげ、
「今度は、唐揚げ……」
 奏が頷き、
「……また、自作にぎりか……」
 慎太郎が肩を落とす。
「おかずはまた分けてやっからさ!」
 石田が慎太郎の肩を叩く横で、
「奏。明日も見に来る?」
 航がギターのゼスチャーで奏に訊ねた。
「うん。そのつもり」
「実はな、今、朝の九時から……」
 唐揚げからストラ、そして、石田の部活の話で盛り上がりながら昼休みは過ぎていった。

  
 翌日の土曜日、いつもの朝のメンバーの輪の一番外に奏の姿があった。ライブ後、若林氏を交えて四人で少し雑談。そして、若林氏が自宅に戻って行く姿を見送った後、奏が二人に切り出した。
「午後のライブまで、どこで何をするの?」
「適当に時間潰して……」
「その辺で弁当食って……」
 気が付けば午後のライブの時間になっている……筈だ。
「正直、午前も午後もって先週から始めた事だから、まだリズムが掴めてないんだ」
 ちなみに、小田嶋氏は春から午前のライブをやめている。どうやら仕事が忙しいらしい。
「ま、三時間くらい、なんとか潰せるやろって感じ?」
 航と慎太郎が顔を見合わせて頷き合う。
「あのさ……。ウチ、来ない?」
「え?」
 突然の申し出に驚く二人。
「母がね、去年の文化祭での君達の話を父にして、それを聞いた父がギターの“秋桜の丘”を聴きたいって……。今日、昼前には仕事から戻ってくるから、もし、迷惑じゃないなら……」