無題Ⅱ~神に愛された街~
「ここだ」
そう言って足をとめた鬨につられてヴェクサも足を止める。
鬨の言う「服屋」は宿からそう離れていない場所にあった。
店の外見はこの街の風景から外れず、石を積み上げてできた外壁に窓がいくつか付いた建物だった。派手な赤い看板に白い文字で店の名前が書かれた看板が、所々塗料が落ちてさびた鉄が見えている扉の上についている。
無言で店の扉を開けて中に入っていく鬨に、ヴェクサは慌てて後を追う。
「いらっしゃーい・・・って、あら!?」
店に入った途端聞こえたけだるそうな声が途中でとぎれ、驚いた声に変わる。
次いで、その言葉の主が大股で近づいてきたかと思うと鬨の前に立った。
背は軽く鬨を越している。
履いているヒールの高い靴のせいかもしれないが、それを抜いても背は鬨と同じぐらいか少し高いかと言ったほどだろう。
女性にしては高身長の人物は、短く肩にまで伸ばした金色の髪をふわふわと揺らしながら鬨に勢いよく抱きつく。
勢いが良すぎて鬨がバランスを崩したほどだから、かなりの衝撃があったのだろう。
その際に鬨が上げた苦しそうな悲鳴は聞かなかった事にした。
「鬨じゃないの!!久しぶりーー!元気にしてた?」
体を離してばしばしと鬨の肩を叩きながらそう聞く女性は上機嫌そうに笑っているが、鬨は苦笑いだ。
「あ、あぁ・・・」
「相変わらずクールねぇ・・・・・・あら、あらあらあらぁ???!」
いままで鬨に夢中だった目線が後ろにいるヴェクサにようやく向けられ、長い睫毛が上下する。
「ちょっと鬨!誰誰!!?この色男!!もしかしてあんたのコレだったりする??」
そう言って小指を立てる人物に、鬨が冷静に「いや、それはない」と返したが、その人物はなおもアイシャドウとマスカラを塗りたくった瞳で鬨とヴェクサを交互に見ている。
そのヴェクサは鬨に目配せをして説明を求めていた。
「・・・この店の店主だ」
「そうよぉ、マリィっていうの。ヨロシクv」
そう言って投げキッスをしてきたマリィは、ピンクの薄いドレスに身を包んだ豊満な体を惜しげもなく晒してそこに立っていた。少し垂れた薄いピンク色の瞳には長い睫毛がその周りを縁取っている。よく見なくとも美人であることが分かるが、美人過ぎると言うことも無く、ほどよく整った顔立ちをしていた。
「・・・ヴェクサ、彼女にだけ名乗らせる気か?」
ぽかんとその様子を見ていたヴェクサを疑問符を浮かべながら引っ張る鬨に従って、鬨の横に立つ。
「わ、悪い・・・ヴェクサだ」
「はい、ヨロシク!」
マリィはもう一度そう言ってニコニコと笑う。
「マリィ、ヴェクサと俺の上下全部新調してほしい」
「久しぶりに来たと思ったら突然の大仕事ねぇ・・・いいわ、揃えてアゲルv」
「助かる」
「でも、今すぐは流石に無理よ。久しぶりの鬨からの注文ですもの、きちんとしたものを用意したいわ。・・・・そうね、明日の昼までに用意しておくから、また店に来て頂戴」
「わかった」
頷く鬨に、マリィは満足気に笑うと、「ところで」と切りだす。
「結局、この色男は鬨のなんなの?」
「・・・・この街に来る前に寄った街で拾った」
「拾っ・・・!?鬨、その言い種はひどくないか?」
マリィから目線を逸らしながら言った鬨に、ヴェクサが非難の声を上げる。
「なに?どういうこと?」
「・・・いろいろあったんだ」
疲れた様子で溜息を吐く鬨と、不満げなヴェクサを交互に見ながら、やはりマリィは不思議そうな顔をしていた。
作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥