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無題Ⅱ~神に愛された街~

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「・・・・・・・・・・・」

たくさん言いたいことはあるが、あっけにとられてしまって咄嗟に声が出なかった。

「あー・・・、不思議なヤツだな・・・?」
「誤魔化さなくていい。そいつは正真正銘の変態だ」

ヴェクサが誤魔化したことを遠慮なく言った鬨の顔はには、はっきり「気持ち悪い」と書いてあった。

「っていうか、この手紙いつ書いたンだろうな?」
「前々から用意してあったんだろ。あいつ、初めから知ってたな・・・」
「?どういうことだ?」
「あいつは俺たちがこの街へ入って来てたのを初めから知ってたんだ。その手紙は、おそらく俺があそこに来る前に書いておいたんだろう。で、こうなることもわかってた・・・相変わらずこういう事だけは得意なやつだな」
「つまり、俺たちは・・・」
「あぁ、まんまと″罠″にはまったな」

そこまで言って、鬨は深く溜息をつく。

「そういうわけだ。この街は明日出る」
「ちょ、ちょっとまて、『依頼』ってなンだ?・・・・あと、「妹」ってなんだ?」
「?お前も会っただろう?」
「へ?」
「エイルだ。お前達一緒にいたんじゃなかったのか?」
「は!?」

確かに、苗字が一緒なのは気付いていたが、まさか兄妹だったなんて、まったく思わなかったのだ。
なにしろ外見もまったく似てないし、そもそもそんな空気が二人からはしなかった。

「じゃあ、恩ってのは・・・」
「知り合った頃に、少しな・・・恩を売ったつもりはないが・・・まぁ本人がそう思っているならそれでいいさ」
「へぇー・・・あの二人、兄妹だったンだな・・・」
「あぁ、しっかり血のつながった兄妹だ」

そう言って頷く鬨に、ヴェクサも納得せざるおえなかった。

「・・・で、『依頼』ってのは?」
「そうだったな。あんたには近いうちにちゃんと説明するつもりだったが・・・まさかこんな形で説明することになるとは・・・」

短い息を吐いて、鬨は自分の腰にある道具入れを探り出す。
そして、取り出したカードの様なものが入れられたケースをヴェクサに放って寄こした。
それを受け取ってカードの文字を目で追ったヴェクサの顔が、驚愕に染まる。

「これ・・・!」
「傭兵の証みたいなものだ。見たことないか?」
「存在は知ってた。けど、実物見たのは初めてだ・・・!」

どこか感動した様子でそれを眺めるヴェクサに、鬨が複雑そうな表情で鬨が続ける。

「流石に何もせずに旅は続けられないからな。たまに『依頼』を受けて旅の資金を稼いでるってわけだ」
「なるほどな・・・っていうかこれ、結構すごい階級じゃねーのか?」
「・・・まぁ、長い間してるからな。階級なんて自然と上がるだろう」
「?そンなもンか?」

鬨は興味深げにカードを眺めるヴェクサからカードを取って元あった道具入れの中にしまう。
それを残念そうに眺めていたヴェクサだったが、話の筋は見えたのでそれ以上はなにも言わなかった。

「ン、まぁそれとなく話しは理解できたけどよ、その依頼って俺がルークスに診てもらった分のやつだろ?それなら俺がするべきなンじゃないのか?」
「あいつはお前が診てもらおうがなかろうが、どちらにしろ俺のとこに回すつもりだったさ。でなかったら、素直にお前に言うだろう?」
「そう、なのか?」
「そうなんだ」

そう言われ、ヴェクサはいまいち納得のできないまま、しかし頷いた。

「そろそろ寝よう。俺も流石に疲れた」
「・・・そうだな」

さっさと布団にもぐりこんでしまった鬨にならって、ヴェクサも自分に宛がわれた布団に入る。
しかし、そうしたことでできた違和感に眉間を寄せた。

「・・・・・あ!!」
「・・・今度はなんだ」

鬨が少し不機嫌そうに、顔だけを上半身を起き上がらせたヴェクサに向ける。

「すっかり忘れてた・・・!鬨!」
「っと、なんだ・・・あ」

いきなり投げてよこされた物体に、慌てて手を伸ばしてそれを受け取った鬨が驚いた顔でそれを見つめる。

「エイルが別れ際に」
「・・・・そうか」

渡されたのは、鬨が地下水道に落ちた時無くした、あの短刀だった。

「余計に依頼が断れなくなったな」

いつもの笑みを浮かべて言うヴェクサに、鬨も目元を一瞬和らげた気がしたが、すぐに目をつぶってしまったせいで本当に笑ったのかどうかはわからなかった。

「そうだな」

そう言った鬨からすぐに寝息が聞こえ、ヴェクサはぱちり、と一度またたきをした後、もう一度笑って自分も今度こそ目を閉じた。


作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥