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無題Ⅱ~神に愛された街~

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Episode.2 見放された街



神に愛された街「ノヴェム」―――――

その名の通り、世界神(イラ・ノヴェム)から唯一愛され、許された街である。
・・・いや、?愛された?という表現は少しおかしい。
正確には、?見放された?といった方が正しいように思う。
愛情の反対は無関心、とよく言うが、この街はまさにその状態だ。
そう。この街には、「決まり」や「法」というものが存在していない。言ってしまえば、無法地帯だ。つまり、この街の中でならたとえ「禁忌」であるはずの「魔術」を使っても許される。法で禁止とされている過度の武装も許されるのだ。もちろん、どこで喧嘩しようが、死人が出ようがそれは世界の『外』で起こった事とされる。
ここは、そういった街だ。
名前も、この街の正確な名前ではない。誰がつけたか知らないが、皮肉で付けられていることは確かだった。
元の街の名前など、もう誰にも分からないだろう。
―――そもそも、この街にちゃんとした名前があったのかも怪しいのだ。
それから、誤りがもう一つ。

「なぁ鬨―・・・」
「なんだ」
「いつになったらつくンだよ・・・」
「もう少しだ」
「お前さっきからそればっかじゃねーか!」
「うるさい。ちょっと黙って歩け」
「〜〜〜〜っだぁーーーー!!この街広すぎだろ!!!」


そう。この街は、「街」という言葉がこれ以上似合わないほど広く、大きい街だ。
ここ、世界三大大陸の一つとされているアセディア大陸の約4割を占めている。
残りは5割が草原や森で、残りの1割が「ミアチェ」の様な小さな街だ。
この大きさだと、街ではなく「都市」と言った方がいいかもしれない。

ちなみに、鬨たちが街に入ったのは西門で、今から行くのは街の東側だ。
そこに行くのに、おそらく一度宿を取らなければならないだろう。それほど広いのだ、この街は。それに、もう日も西に沈もうとしている。

「ヴェクサ、今日はこの辺りで宿を取る」
「!・・・そうだな」
「?・・・・・なんだ」

嬉しそうなヴェクサに、若干引きながら隣に並ぶヴェクサの顔を見る。先ほどまでの不機嫌そうな顔は見る影もない。

「いや、名前をな」
「名前・・・?」
「街では「あんた」としか呼ンでなかっただろ?・・・最後に一回呼ンでたけど、その後また戻ってたしさ」
「・・・・・あぁ・・・」

そんなことか・・・と呆れながら顔を正面に戻した。

「そんなに大差ないだろ。呼び方なんて・・・」
「いや、変わるって!なんかこう・・・仲を深めれた感じ?」

変なやつだな・・・と思いながら、苦笑いをもらす。

「あんたは初めから慣れ慣れしかったな」
「ちょ、せめてフレンドリーって言えよ!」

そんなヴェクサに適当な返事を返しながら周りに目を配らせる。
宿を探さなければいけないのだが、なかなかいい場所が見つからないのだ。
少し遅すぎたか・・・と眉間に皺を寄せていると、

「・・・・っ」

ひどい眩暈に襲われ、思わず足元がふらつく。

(やはり、魔力を使い過ぎたな・・・・)

忘れていたが、鬨はヴェクサの心臓を造るのに大量の魔力を消費している。
消費、というか、あの「魔石」に大量の魔力を「持って行かれた」、と言う方が正しい。
魔力は体を休めれば回復するが、消費した分が大きければ大きいほど術者には体に負担がかかる。術者が持っている魔力に見合っただけの魔術でなければ、命にかかわることだってあり得るのだ。
今までは街の外ということもあって、気を張り詰めていたからあまり気にならなかったのだが、街に入って気が緩んでしまったのだろう。疲れと言いようのない脱力感が鬨を襲う。

「・・・・鬨?どうした、大丈夫か?」

鬨の様子に何かを感じたのか、ヴェクサが心配そうに鬨を覗きこむ。

「いや、大丈夫だ。心配ない」
「そうか?」
「あぁ。少し疲れてるんだろ」

再び歩き出す鬨に足のふらつきはなく、先ほどまでの不安定な様子はかけらも残っていなかった。


鬨の望む宿を見つけられたのはそれから2時間後のことだった。
宿にあった店で食事を済まし、部屋に落ち着けたのはそのさらに1時間後。
目的地まであと数キロメートルといったところにあるこの宿は、値が安い割に小奇麗な宿で、取った部屋からは街全体とは言わないが、近くの景色をほとんど見渡すことができた。

「この街も滞在は3日なのか?」
「いや、この街は用事が済み次第出る」
「は、なんで?」
「この街はあまり長居しない方がいい」
「そうなのか?」

その問いに、鬨は首を縦に振るだけで答えた。
鬨はぐったりとベッドに横たわり、仰向けで目をつぶってしまっている。
顔色もいいとはいえない。

「鬨、お前本当に大丈夫かよ?」
「平気だ。寝れば治る」

そう言って大きく息を吸ったかと思うと、すぐに静かな呼吸がし始めた。

「寝るの早っ!」

目をむいて驚いたヴェクサの声にも、鬨は起きる気配がない。

「・・・・・・・寝よ・・・・」

鬨が寝たことで静かになった室内に、ヴェクサも自分の寝床へと潜ったのだった。


作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥