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無題Ⅱ~神に愛された街~

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「げ」

そんな声をあげたヴェクサの目の前には、朽ちてそこの抜けた階段が続いていた。
少しの綻びなら飛んで越えればいいだろうが、そういった問題ではないほど階段は途中から無くなっていた。

おそらく半分ほど上っただろうか、残すこと後少し、というところで途切れているのだ。
まぁなにも最上階まで上らなくとも中に入れればいい話しなのだが、途中で見つけた扉はすべて内側からカギがかかっていて開かなかったのだ。最上階に上るまでに一つぐらいは開いてるのではないかとここまで上って来てみたわけだが、ここにきて階段がこのありさまである。すぐそこに扉はあるが、残念なことに鍵は開いていなかった。

「どうすっかな・・・・」

そう言って頭を悩ませていた時だった。

「!?」

いきなりそばにあった扉の鍵が音を立てて開いたのだ。
そのことに驚きを隠せないまま固まっていると、扉の奥、つまり病院の中から人がゆっくりと現われた。

「っ!?」

その人物を見て、ヴェクサは更に混乱する。

「・・・・見つけた」

静かな声でそう言った人物は、何も映していないような瞳でただヴェクサを見ている。
明るい月明かりに照らされて、その光を吸収しているかのような錯覚を受ける綺麗なプラチナブロンドのふわふわの髪が頭の上で二つに括られている。鮮血の様な赤い大きな瞳。日にまったく焼けていない白い肌に桜色の唇。
誰が見ても美少女と答えるであろう容姿をしている。
黒生地を基準にしてレースをふんだんに使われて作られているドレスの様な服を着ているその少女は、見た目の年齢にあまりにもそぐわない落ち着きを備えてそこに立っていた。

ヴェクサの目から見ても異様なほど静かにそこに立たれているものだから、これだけの容姿をしていながらもその存在感はとても薄い。
おそらく、この少女と街中ですれ違ったとして、ヴェクサはまったく少女に気付くことなく、その存在さえも認識せずに少女の横を通り抜けただろう。

「・・・・・こっち」

いつの間に近づいたのか、そう離れていたわけではないにしろ、少女の足では3歩は用するであろう距離をいつの間にか詰められて、服の端を引かれる。
近くに寄られると、その少女はヴェクサの腰ほどまでしか身長がなく、本当に小さい子供なのだとわかる。

「は?」
「・・・あまり長くは、止められないから」
「?」

見上げてそう言う少女の言っている意味がわからず、また、この状況も未だ処理しきれていなかったヴェクサは引かれる腕に躊躇する。
それをいじらしく思ったのか、表情を変えない少女は動かないヴェクサを強引に引っ張って、先ほど出てきた扉から病院内に無理矢理ヴェクサを入れる。少女の細い腕のいったいどこからそんな力が出ているのかというような力で引っ張られて、予想外のことに躓きそうになりながらも仕方なく引っ張られるままに歩く。


そして、冒頭の気まずい雰囲気の二人に戻るわけである。


作品名:無題Ⅱ~神に愛された街~ 作家名:渡鳥