送り狼にご注意を
「手を」
「うん?」
「手を握ってくれないか」
「ああ?」
今までの行動からかけ離れた生温い要求に、トールは正直な戸惑いを露わにした。
開いた口が塞がらないというトールの様子を見ながら、フェンは静かに待っている。ぎこちない沈黙の空気が流れ続けていた。
「うううっ」
罠か本心なのか判断しかねたトールは、宿代だと割り切ることにした。手にある包みも寝具の上にきちんと安置したあとで、伸ばされたままの手に手を貸した。反対の手には忘れず棍棒を持つ。手を重ねると、弱い力で握り返された。横になったフェンは静かに呟く。
「トール」
耳を疑ったトールが隣を見ると、寝息が聞こえてきた。
「え。早」
狸寝入りか確認しても、相手は一向に目覚めなかった。挨拶も皮肉もなにもなしにころりと眠っている。
透けるように白い顔を見下ろし、トールは首を傾げる。
「疲れていたのかな」
くるくると変わる表情。見当たらない真意。
トールはとりあえず横になり、隣の寝顔をなんとはなしに眺めた。退屈ながら穏やかさを感じたトールも、知らず知らずのうちに眠りに落ちていった。
次の日、おはようの口づけで目覚めてフェンが蹴り飛ばされるのは、まあ、朝の話。