願い石 叶い石
「知るための旅でもある」
「求めよ、されば与えられん――って? 世の中ね、そんなに甘くないんだ」
「でも求めなければ、なにも手に入らない。待っていても、奇跡は起きない」
ハッ、とルーシェが吐き捨てた。
「奇跡だって? 冗談じゃない! そんなものはね、この世のどこにも存在しないんだよ」
寄りそう仔ブタが、心配げにずっと見あげていた。だが彼女は気づいていないだろう。
ルーシェは盛んに煙を噴きあげる、今にも噴火しそうな火山を思わせた。それでも彼女がまだ、噴きだしそうな溶岩をこらえているのは、見ていてわかる。
しかし自分の何がそうまで、彼女を怒らせているのかがわからなかった。
不意に、困惑する視線の先で、前を行く華奢な背が立ちどまってふり返る。
「わかった」
腰を屈めてディンの目をのぞきこむと、ルーシェはくすりと笑う。ディンは不快感を覚えた。
その笑みは、さげすみと、優越感に裏打ちされた憐憫とが入りまじる、いやなものだった。
「おまえは単に子どもなんだ。偉そうなことをいってても、なぁんにもわかってないだけの、ただの子どもだ」
ディンは基本的に、ひとになにをわれようと余り気にならない。なにをいわれたところで自分はしたいようにするだろう。
ひとの意見を聞くことは大切なことだと思うが、聞きいれすぎて自分を見失うのは問題だ。ひとにはひとの、己には己の意見があり、一人よがりはいけないとさえわかっていれば十分だと思っている。
だがさすがにディンも、子どもだからといういわれようだけは聞き捨てにできなかった。
覚えず声が険をふくむ。
「子どもも大人も関係ない。誰しもみんな、自分の考えにしたがって行動するだけだ」
「そういうとこが子どもだっていうんだよ。正義感に鼻面引っかきまわされて、自分一人で突っ走って」
ふふんと笑いながら上体を起こしたルーシェは、進行方向へと体を戻しながらディンの額を指で突ついた。
たいした力ではなかったと思う。
だがディンの体は、万力に襲われたように後ろにかしいだ。
均衡をくずした上体が宙を泳ぐ。一瞬、浮遊感が全身をつつんだ。
「ブヒッ!」
ブリリアントが鋭く鳴いた。ルーシェが振り返る。
しかし彼女が状況を認識したときには、ディンの体は背後にむかって倒れこんでいた。
時も場所も悪かった。
普通なら受け止めきれるほどの力だ。だけど疲れていて体を支えるだけの体力がなかった。
よろめいて踏ん張ろうにも足下も悪かった。それでも、下にむかって急斜面になった山道で、なければしりもちをつくだけですんでいただろう。
ディンは吸いこまれるように落下する。ルーシェの紫色の目が大きく見開かれる。
その目がとてもきれいだと思った。
思いながら背中を襲った衝撃に、ディンは意識を失った。