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表と裏の狭間には 一話―光坂学園入学―

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真壁は、勉強一筋の見た目に反して、結構普通の人間だ。
勉強はそこそこで趣味にかまける普通の少年だ。
明るい性格と人当たりの良さで、クラスの人気者になっている。
蓮華も、清楚なお嬢様系の見た目に反して、今時の普通の女の子だ。
まあギャルでこそないけど。
普通にアイドルを見て騒いで、恋バナで盛り上がる、そんな普通の子だ。
さて。
食事がひと段落したところで。
真壁が話を切り出した。
「都市伝説って、知ってるか?」
「都市伝説?」
なんだそりゃ?
「近頃学生の間で流行っている都市伝説ですよ。」
なるほど。今度池袋に行ってみよう。首無し黒バイクに会えるかもしれん。
「いやそれデュラの中だけだろ。」
真壁も読んでるんだ、あれ。
「僕の言う都市伝説は、これだ。『アーク』。」
「アーク?」
「あ、それ私の中学でも流行ってました。」
俺の地元では流行ってなかったな。
「君の地元ってどこだい?」
俺の地元を告げると、真壁は
「そんな田舎じゃ無理もないかもね。」
と言った。
「説明すると、アークってのは、今日本のあちこちで流行ってる都市伝説だ。なんでも一般人の中には、日々武器を取ってヤクザやマフィアと戦ってる奴らがいるらしい。」
なんだそれ?今時三流小説の題材にもならない設定だな。
「そうだろ?だけど不思議と信憑性があったりもするんだな。ニュースで暴力団同士の抗争とかって騒いでるけど、アレの大半が実はアークとの抗争だって説もある。」
へぇ。
「ネット上でもっぱら騒ぎになってるぞ。元暴力団員が、『謎の集団からの襲撃を受けた』って話してるって証言もある。」
偽じゃないのか?
「公的にはそうなってるみたいだ。あまりに有名すぎて一時期実在するか否かの大激論が繰り広げられたほどの都市伝説だ。話が話だけにな。だが警察は『あくまで噂話であり、そんな集団は存在しない』としている。」
「へぇ………。じゃあやっぱりいないんじゃん。」
「クク……当たり前だよ。だって、都市伝説だし。でも今、君がっかりしただろ?」
あ。
「そう、ついつい『実在するのが当然』って認識してしまうのが、この都市伝説の肝だ。」
………なるほど。
こうして話を聞くうちにその気にさせられる、こんな都市伝説は初めて聞いた。
「私が始めて聞いたときも、そんな感じでした。なんだか不思議とわくわくして、気がついたら本当にいるって思っちゃうんですよね。」
確かに、これは本物の都市伝説だ。
そしてなにより、語る真壁は本気だった。
何かコイツ、本気の目をしてるんだよ。
心の底では、絶対馬鹿馬鹿しいとか思ってないだろ。
「まあ、こんなところだよ。どうだった?」
面白かったと答えるしか、俺に選択肢はなかった。

ところで話は変わるが、『噂をすれば影が差す』という言葉がある。
とある小説では、主人公が吸血鬼の話を聞いたその日の夜に吸血鬼と遭遇していた。
いきなり何を語っているのかと問われるかもしれないが、何故かその言葉が思い浮かんだのだから仕方ない。
あれから数日。
特に問題もなく過ごしているんだから、問題ないだろ。
俺は家から少し離れたスーパーに買い物に来ていた。
雫は家で料理を作っている。
その帰り道。
道を歩いていた。
そこは、地下街の入り口が程近い場所で、人通りも多かった。
その通りの。ビルが立ち並ぶ一画で。
なんだか、気になった。
そこはただの路地裏の入り口だ。
ビルとビルの狭間。
その狭く、暗い道。
なんということのない路地の入り口。
なのに俺は、そこが妙に気になった。
気になったというほどではないのかもしれない。
ただ、違和感。
些細にして、奇妙で絶大な違和感。
なんだか、引き寄せられる。
無視できない。
俺は、吸い込まれるように、そこへ踏み込んだ。
曲がりくねった路地。
まるで迷路のようだ。
俺は不思議と、迷いなく進むことが出来た。
そして。
路地を抜けた先にあったものは。
端的に説明しよう。

ビルだ。

四方にビルが立ち並ぶこの空間に、ぽっかりと空いた穴のような空間。
表通りからは見えない、隠された場所。
パッと見、周囲のビルからも、このビルは見えていないだろう。
そんな隠蔽されたビルが、そこにあった。
違和感の正体は、これか。
と。
「貴様!何者だ!?」
そのビルは、見た感じ四階建てで、二階と三階にあたる部分にはデッキがあった。
そのデッキに、一人の男が立っている。
どうやら怒鳴ったのはその男らしい。
その男は、こちらに何か鉄の棒のようなものを向けている。
何かと思って目を凝らしてみるが、すぐに後悔した。
それは目を凝らしたことだろうか。それともここに入ったことだろうか。
ひょっとして、あの鉄の棒は、俗にライフルと呼ばれる代物じゃぁありませんか?

続く