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表と裏の狭間には 一話―光坂学園入学―

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俺は柊紫苑。
今日から光坂学園高等学校に通う、高校一年の男子だ。
自分で言うのもなんだが、これといって特徴のない、ただの一般人だ。
そんな俺だが、この学校で、少しは面白い出会いとかあるのかな、と、僅かながらの期待を持っている。
そんな期待を胸に、俺はこの学校の門をくぐる。

……って、どっかのギャルゲーの主人公っぽい自己紹介を語ってみたものの。
空しいなぁオイ!!
ここまで空々しい台詞は久しぶりだ!
しかもまだ家だし。
特徴がどうかはさておき。
背景ならそこそこ背負っているつもりだ。

いきなり重い話で悪いが、両親が死んだ。
元はド田舎の中のド田舎である辺境の地に住んでいた訳だが、ちょっとした事故で両親が成仏あそばされた。
田舎でちょっとした大企業を経営していて、財産はそれなりにあった。
その企業は面倒くさいので適当に投げて金にし、鬱陶しい親戚連は斬って捨てた。
人間は基本的に信用ならない。
両親が死んだところで特に何も思わない。
両親は仕事人間で、家の事は俺たちでやっていた。
大量の金を残してくれたことには感謝するが、泣き叫んで別れを惜しむほどではない。
まあ、今は意外とこんなものなのかも知れないけれど。
そんなこんなで、俺は唯一信頼の置ける相手、妹と東京へやってきた。
今年高校一年になる俺。
中学三年になる妹。
まあ季節の変わり目ってことで、特に不自然な形にはならずに済んだ。
光坂の一角にあるマンションを借りて、そこに住んでいる。

光坂。
十年ほど前、日本各地で巻き起こったニュータウン建設ブーム。
このブームは日本各地で発生し、各地方で最低一つはニュータウンが建設された。
ここもその一つらしい。
そして今日から俺が通う私立光坂学園高等学校も、その際に成立した高校らしい。
歴史はあまりないものの、今時の教育や応用に富んだ教育、細やかな指導などで人気があるとかないとか。
普通学科の他に建築や情報、機械や美容、医療、その他様々な分野の基礎教育を施しているらしい。
広大な敷地を誇り、その中にいくつもの校舎がある。
現在俺はその校内を歩んでいる。
入学式は数日前に済んだ。
新入生の数はおよそ600人。
別の場所にあるコンサートホールで行われた。
式典っていうのは人数が多すぎると逆に簡単になるようだ。
今日は顔合わせの予定。
一年四組。
それが俺に割り当てられた教室であり、学級である。
広々とした本校舎の四階。
その一画に教室はあった。
扉を開くと、どうやら俺が最後の生徒だったようだ。
「早く席に着きなさい。」
促されて座る。
一つしか空席がなかったので、すぐに分かった。
「えー、ではこれから、この学級初のHRを始める。私が君たちの担任、大村健悟だ。よろしく。」
先生――大村先生が黒板に自分の名前を書く。
「担当は数学。部活は文芸部の顧問をしている。よろしくな。」
何故数学担当なのに文芸部!?
「では君たちにも自己紹介をしてもらおう。」
出席番号一番の人から順番に自己紹介していく。
………俺の番だ。
「柊紫苑です。木の柊に花の紫苑です。よろしく。」
そのまま延々と自己紹介が続いて。
「じゃあこれでHRを終わる。しばらくはオリエンテーリングだから教科書を持ってくる必要は無いぞ。じゃあ、解散。」
教師はそのまま退場した。
後に残った生徒たちは、すぐさま思い思いのグループを作り始めた。
俺はそんなグループの形成をゆっくり観察していたのだが。
そんな俺に近づいてくる影があった。
振り返ると、そこには二人の男女がいた。
一人は眼鏡をかけた少年で、いかにも勉強が得意そうなイメージ。
一人は髪の長い少女。清楚なお嬢様系といえばわかりやすいだろうか。
「やあ。僕は真壁重一。よろしくね。柊紫苑君。」
見た目に反してはっきりと区切りのいい発音。
「ああ。よろしくな。」
女子のほうも口を開いた。
「あ……えっと、雅、蓮華です。よろしくね。」
「ああ。よろしく。雅さん。」
雅蓮華。綺麗な響きの名前だと思った。
「いやー僕この学校で知り合いがいなくてさ。誰とつるもうか悩んでたんだ。まあ席も近いことだし、よろしくね。」
「あ、私もです。ちょっと不安だったんですけど、よろしくお願いしますね。」
「ああ。実は俺もだ。まあこうして声かけてくれてありがとうな。紫苑って呼んでくれ。」

帰宅。
あの後特に益体のない話をして、解散にした。
俺達のグループにそれ以上人が加わる事はなかった。
学校から少し歩いたところに、俺の家であるマンションはある。
駅からも程近い、中々の立地だ。
某大手マンションのもので、入り口にガラスの扉があるタイプの奴だ。
そこの405号室が俺らの部屋だ。
鍵を使ってエントランスを潜り抜け、エレベーターを使って四階まで上がる。
五号室――つまり角部屋である。
鍵を開け、扉を開け、中に入る。
「ただいまー。」
「あ、おかえりー、お兄ちゃん。」
さて、ここで登場したのが、俺が唯一信頼する妹、柊雫。
家事万能、特に料理が得意、趣味は世話を焼くことという無駄に完璧な人間である。俺とは大違いで、何故兄弟でここまで違うのか疑問を抱く。
容姿はまあまあ、つまり普通、この辺は俺と似たようなものである。
「今日は野菜とお肉が中途半端に余ってたからチャーハンにしたんだー。」
両親は『お前たちが独立するときには好き勝手できるだけの金を用意しておくから、今は言うことを聞いてくれ』と俺たちに言っていたのだが、その言葉は本当だったようで、実際何不自由なく生活できる金があった。
その点で言えば、俺は仕事人間だった両親に感謝しており、だからというわけではないが、一切の制約がなくなった今も節制に勤めている。
故に先ほどのような発言が成り立つわけである。
どうせうどんがあったら焼きうどん、中華麺があったら焼きそばになっていたんだろう。
まあ、けちけちはしないけど。
無駄遣いはしない。
勿論、ゲームもするし、本も買う。
でも湯水のように金を使うわけではなく、一ヶ月の予算、そしてそれぞれの小遣いをきちんと設定し、その中でやりくりするようにしている。
この部屋は少々高い値段だったが、それはここしか開いてなかったので仕方なく買っただけだ。
故に、二人では寂しいくらいの広さである。
だからだろうか、家にいるときは大抵二人ともくっついている。
俺も、雫も、一人は嫌だ。そう思っている。
昔以上に、二人でいるようになった。
何だかんだ言いつつ、両親の死は俺たちの心に、何らかの何かを残したようだ。
少し広すぎるリビングで食事である。
程よくパラパラに炒められたチャーハン(カレー風味)を口に運ぶ。
うん。今日も美味い。
コイツはちょっと抜けてるところがあるけど(麻婆豆腐が激辛になるとか。とあるアニメの影響で)、料理の腕は確かだ。
「お前の始業式は明日だっけ?」
「うん。そうだよ。」
「ま、多少目立っちまうだろうけど、頑張れよ。」
「え?私そんなに目立つ容姿だったの?」
「そうじゃねぇよ!」
こういうところが抜けてるっていうんだよ。
テレビのニュースでは、暴力団同士の抗争がどうのこうのとか言う物騒な話題が語られていた。
東京に来たのは間違いだったか?