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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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あやかしの棲む家

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「もう少し調教したかったけれど、あなたがそういうなら仕方がないわね。うふふ、欲望に忠実なあなたが大好きよ」
「わたくしも貴女と知り合えた本当によかったわ。貴女がやって来るまでは本当に虚しいばかりの生活だったもの」
 二人は連れ添って部屋を出て行こうとした。その途中で、静枝は菊乃に顔を向けた。
「落ち着いたら娘たちに悟られないように運んでおくのよ。あとのことはわかるわね?」
「すべて心得ております」
「ならいいわ」
 菊乃にあとのことはすべて任せ、静枝は部屋を出た。
 慶子と廊下を二人で歩いていると、前から幼い少女が駆け寄ってきた。
「おかあさま、おかあさま!」
「どうしたの美花さん?」
「ようこはまだ帰ってこないの?」
「もうすぐ元気になって帰ってくるわ。けれど、病気のせいで記憶を失ってしまったみたいなの」
 幼い美花は驚いた顔をして、すぐに悲しい顔をした。
「わたしのこともわすれちゃってるの?」
「そうよ、しばらくすれば昔のようにこの屋敷で働けるようになるけれど、記憶だけはどうしても戻らないのよ」
 美花は今にも泣き出しそうだ。
 慶子がそっと美花の頭を撫でた。
「記憶を失うなんて本当に些細なことでしかないわ。またいっぱい遊んでもらって、たくさん楽しい思い出をつくればいいだけの話よ」
「……けいこせんせい……うん、わたしそうするね!」
「うふふ、本当に美花は良い子ね。さあ、行きなさい」
 慶子は美花の背中を軽く押した。
 駆けて行った美花の姿が見えなくなると、慶子は静枝と話をはじめた。
「ところでお肉を捌くとき、まずはわたくしに任せてくれないかしら?」
「なにかおもしろいことでもあるのかしら?」
「どこまで生かすことができるのか、挑戦してみたいのよね」
「それは楽しそうだわ。いつも殺すことばかりで、思いつきもしなかったわ」
 二人は笑いながら廊下を歩いて行った。

 荷物を麻袋の詰め終えた菊乃は、それを台車に乗せて瑶子に顔を向けた。
「捨ててきてください」
「はい、わかりました!」
 元気よく瑶子は返事をした。
 瑶子が記憶を失った状態で目覚めたのは数年前のこと、今では屋敷での仕事をなんでもこなすことができる。
 台車を押しながら屋敷の外に出ると、ちょうど出くわしてしまった。
 すっかり成長して、このごろは女らしくなってきた双子の姉妹。歳は七つだが、その見た目は一五前後で瑞々しい。
「す、すみません!」
 慌てて瑶子は来た道を引き返そうとした。
「気を遣わなくていいわ。美花は嫌がるでしょうけど、私はなんとも思わないから」
 美咲の視線は麻袋にあった。
「そうですか、それでは失礼します」
 瑶子は頭を下げて急いで台車を押した。
 屋敷の裏手には大きな穴がある。
 その中に瑶子は麻袋の中身を放り出した。
 大量に積まれていたその山が崩れる。
 骨骨骨、血がついたままの頭蓋骨。
 穴から溢れんばかりの骨がそこにはあった。
「わぁ、もうすぐいっぱいになりそう。静枝さまにお知らせしておかなきゃ」
 ごみ捨てを済ませて、急いで戻ろうとすると、その袖が何者かによって引かれた。
 瑶子が振り向くと、そこにはるりあの姿があった。
「どうしたのるりあちゃん?」
「…………」
 るりあは心配そうな顔をしてなにも言わない。
「もしかしておやつですか?」
 るりあは首を横に振った。
「なにか悩み?」
「ようこ心配」
「あたしのことが?」
「……嫌な感じがする」
「またですか?」
 瑶子はこれまでのことを思い出した。
 るりあが『嫌な感じがする』と言うと、必ず何かが怒る前触れなのだ。
 先月は大雨で庭の真横にある崖が大きく崩れた。被害がこれといってなかったのは幸いだった。
 今回は瑶子と具体的な名前まであがっている。
「あたしなら平気ですよ。病気一つしませんし、いつも元気いっぱいですから!」
「禍はどんな状況でも起こる」
「そういう不吉なこと言ってると呼び込んじゃうんですよ」
「………」
「ああっ、ごめんなさい。別にるりあちゃんのこと責めてるわけじゃなくて、心配してくれるのはありがとうございます。でも本当に平気ですから!」
「……ようこのばか」
 るりあは駆け出して行ってしまった。追おうと思ったときには、もう姿がない。
「ああ、るりあちゃんに嫌われちゃった。あとでこっそり果物をあげて機嫌を直してもらおう」
 肩を落としながら瑶子は台車を押した。
 屋敷に戻ってきた瑶子は台車を片づけて台所に向かった。るりあにあげる果物を探しにきたのだ。
 台所までやってくると、目を丸くした美花と目が合った。
「美花さま……こんなところでどうかなさいましたか?」
「えっ、べつに……なんでもありません!」
 慌てたようすで美花は背中になにかを隠した。
 じいっと瑶子はその背中に視線を向ける。
「なにか隠しましたよね?」
「だからべつに……あの……」
 口ごもる美花。
 瑶子は美花の背中に回ってそれを見た。
「あ、おなかすいちゃいました?」
 瑶子が見たのは果物の山だった。今にも落ちそうなほど持たれていた。
 見つかってしまった美花は、果物の山を胸に抱きかかえ直した。
「すみません……盗み食いみたいな真似をしてしまって……」
「ぜんぜん気にしないでください。美花さまは育ち盛りなのですね」
「お返しします」
「ここにある物はすべて美花さまたちご家族の物なのですから、どうぞ自由に持ってってください」
「ありがとうございます」
 頭を下げた美花は慌てたようすで走り去ってしまった。
「あんなにいっぱい美花さまひとりで……あっ、美咲さまといっしょに食べる気だ。やっぱりなんだかんだ言っても仲のよい姉妹なんですね!」
 ひとりで納得して瑶子は大きくうなずいた。