SDSバスターズ~ピエロ退治します~
「じゃあ、そうゆうことだから。ま、色々と考えておいてね。あ、そうそう僕のことは呼び捨て、もしくわ“ボス”で頼むよ」
さん付け苦手なんだよねー、といってセシルは俺に手を振った。それなら、セシルと呼ぼう。彼は俺の上司となったわけではない。それを合図に、源外さんが俺の元へとやってきて、出口まで付き添ってくれた。「まぁ、その、なんだ。知っちまった以上は後戻り出来ないんだが、一応考えておいてくれ。気持ちの整理がついたらまたここに来い」と一言ぼそっといった。俺ははぁ、と曖昧な返事をし、事務所(らしき建物)を後にした
背後から、「あ、俺もゲンでいいからなー」と源外さんの声が聞こえた。
その晩、俺はベッドに倒れこみあの場所での出来事を思い返した。
うん。ピエロ、あいつらは……人の感情が具現化したもの、ってセシルさんは言ってたっけ。で、ピエロが現れるのは感情が溢れたとき。なんの感情だっけ……確か七つのタイザイがどうのこうのと言っていた気が。おし。忘れてる。辞書ででも調べるか。
俺は高校生の友の電子辞書を取り出した。
「ななつのたいざい」っと。お、発見! へぇ、七つの大罪って書くのか。えーっと、七つの大罪とはキリスト教の用語であり、「罪」そのものというよりは、人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指す。厳しさの順に「傲慢」、「嫉妬」、「憤怒」、「怠惰」、「強欲」、「暴食」、「色欲」がある。
ふ~ん。ま、とりあえず今のところあいつらが何かしてくることもないし。どうせ拒否なんてできないし、なるようになるだろう。
今日はとても疲れた。整理の出来てない部屋のベッドに一度横たわってしまったので、そこから動く気にもなれず、そのまま眠りに落ちた。
次の日、俺は至って普通に登校した。いや、ピエロが見えているから普通ではないか。まぁ、俺が言いたいことは昨日のことはほとんど気にかけていない、ということだ。
その日一日何も起こらず、普通に授業を受け、菓子を食べたり、友人とだべっていた。
事が起きたのはその日の午後。世界史の教師の子守唄が終わり、終業のチャイムが鳴った時だった。
生徒たちがに俄かに騒ぎだした。俺が不思議に思っていると山田(クラスに一人はいるだろう? 人間メガホンのような奴)が教室のドアを勢い良く開け、叫んだ。
「なんか異様な集団が校門前に集まってるらしいぞ!」
異様な集団? 俺の席は幸いにして窓側の一番後ろだったので、ちらりと外に目をやった。そこには、帰宅する生徒たちが校門を出ようか、出まいか迷っており人だかりが出来ていた。そのため、噂の異様な集団の姿は見えない。
「見えた?」
突然、俺が比較的仲良くしている男子生徒、田口が俺に尋ねた。田口は机に突っ伏して、顔だけ上げている。こいつ、全く興味がないな。
「いや、なんか人だかりができてて見えない」
田口はふ~ん、というと顔を下し、寝た。放課後というのに帰る気すら起きないようだ。
眼鏡をかけていて、いかにも「優等生です」という風貌なのに……詐欺だよな、コレ。俺はため息をつき「おやすみ」と苦笑いを浮かべると、外に目を移した。変化が現れたのはその次の瞬間だった。
校門で立ち往生していた生徒たちの数人が校舎の方に顔を向け始めた。何かあるのか? と窓を開けようとした。
すると、勢いよく再び教室のドアが開いた。確認するまでもない、山田だ。俺は、窓を開ける手を止め山田の方に向き直った。
やはり山田だった。山田は教室のドアの前で膝に手をつき荒い息をしている。どうやら、相当な早さで走ってきたらしい。大きく息を吸うと、中に入り、俺の元へと一直線に向かってきた。
「おい! 和真! お前、何したんだよ!?」
教室の異様な雰囲気を感じ取ったのか、田口は起き上がっていた。
「は? 何が?」
「何が? じゃねぇ! あいつら、お前に用があるんだってよ!」
山田は窓の外を指し、そう叫んだ。
「ねぇ、和真。昨日一人で帰ったけど、何かあったんじゃないの?」
確かに何かあったと言えばあったが、この騒ぎとは関係ないだろう。
「別に。何も」
「そんなはずあるか!? そいつら、『ここに鈴村和真君っているかな?』って聞いて回ってんだよ!」
山田は机を破壊しそうな勢いで叩き、俺に詰め寄る。
「元気(もとき)うるさい。寝られない」
田口が山田をなだめようとした。きっと。
「何がうるさいだ! 俺らのダチが変な奴らに呼び出されてんだぞ!? 寝てる場合か!」
今度は再び寝ようとしていた田口に詰め寄った。襟を掴むと田口の頭をブンブン振った。お前、それでもダチか!? というような文句も聞こえる。
「ちょ、ストップ! ストップ! 和真も見てないでなんとかしてよ」
俺はいつものことなので、放っておいたがさすがに田口の脳のミソが耳から出てきそうなほどシェイクされているので、山田を止めた。田口は襟を正し、着席した。
「遅いよ。ったく。で、まず基本的なこと。その妙な奴らってどんな奴らなの? 人数は?」
どうせ見てきたんでしょ? というと、山田に情報を求めた。
ふと目をやると、教室の外にも人だかりが出来ていた。校門の前にいる怪しい奴らが俺を探している、と聞きつけたのだろう。全く、今までなるべく目立たないよう生活してったってのに、誰だよ。
「おう! もちろん。えーっと、そいつらは四人組で、女が二人、男が二人だった」
次に外に目をやると、外にいる奴らに害がないと判明したのか、人がだんだん減っていた。
「一人の男は帽子かぶってたからどんな奴かわからん。もう一人は中学生ぽかったな……あ、女の方も一人中学生ぽかった」
人が減ったせいか、その異様な、怪しい奴らの姿が見えてきた。
田口が俺に、心当たりは? と聞いてきたので、全く、と首を振った。それを見て、山田に先を促した。
「で、最後の女ってのがビックリ! めっちゃ美人なのに……」
あ、あれか。俺はようやく集団の全容を見ることが出来た。確かに、異様だ。小さい子が二人に、え? メイド?
俺はムショ―に嫌な予感がした。
その予感を確実なものにするかのように、強い風が吹き、男性の帽子が吹き飛んだ。
「あ」
「メイド服なんだよ!」
山田の声と俺の声、そして外から聞こえる悲鳴が重なった。
「な、なんだ!?」
「何事?」
俺ら三人は窓に駆け寄った。すると、校門の前に再び人だかりが……。先程と違うのは、その人だかりの約八割が女生徒で構成されているところか。
「ちょ、俺見てくる!」
そう言うと、山田は教室を飛び出してしまった。
「あ。行っちゃった……さすが元気。名前の通り。で、和真。心当たりがあったみたいだけど」
「ああ。ちょっとあった」
彼らが誰だか分かった時は、普通に彼らの元へ行くことも考えた。しかし、今の状況を見て、その選択肢は消された。すると、選択肢は一つ。俺はルーズリーフを取り出し、メモした。それを折ると、田口に差し出した。
「山田が帰ってきたら、これをそいつらに渡すよう頼んで。俺、裏門から帰るから」
田口は「理由は、聞かない方が良さそうだね」と言うと分かった、と紙を受け取ってくれた。
作品名:SDSバスターズ~ピエロ退治します~ 作家名:夢見☆空