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SDSバスターズ~ピエロ退治します~

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<章=やればいいんだろう!!>

 今日は土曜日。バレンタインまであと、二日。
俺はいま、事務所にいる。土日は学校がないので、ここに来るように言われている。
「思ったんですけど」
「なんだ?」
 俺の些細な一言をゲンは聞き逃さなかった。そして、彼は事務所ではあの疲れ切った教師ではなく、爽やか且つアダルトな魅力を放つ青年と化していた。
「アンタたちが来なかったら、事件起こんなかった気がする」
 そう、ほとんどの生徒はあんたらが原因で様々な感情要因(ハーツ)を抱いている。
 ゲンは頬を指で掻きながら、目線を逸らした。
 すると、いつから来ていたのか兄貴が答えた。
「お前、随分馴染んでるな。確かに一理あるが、ゲンが変装しているおかげで被害は最小限に抑えられてるぞ」
 確かに、この顔で普通に生活されたらひとたまりもない。
 その日は、特に何も起きず、だらだら過ごして終わった。事件が起こったのはその次の日、バレンタイン前日の真夜中だった。だから、実際はバレンタインデー当日だ。
 枕もとの携帯が鳴り響いた。俺は手探りでそれを掴むと耳に当てた。
「ふぁい?」
「和真? 緊急事態だ。雅人連れてすぐに学校に来い」
 電話の相手はゲンだった。ゲンはそれだけ言うと、早々に電話を切った。
 今何時だ? 
 時計を見ると時刻は午後十二時を回ろうとしていた。
「なんで、こんな時間に」
 俺は再び眠りに落ちようと思ったが、ゲンの声音がいつものと違い、少しの焦りを感じさせた。
「行く、か」
 俺は布団から抜け出ると、早々と制服に着替え、自室を後にした。
 兄の部屋の前に立つ。ドアの隙間からわずかに光が漏れていた。どうやらこんな時間にも関わらず、兄貴はまだ起きていたらしい。俺は静かにドアをノックした。
「なんだ」
「ゲンから電話があって、今すぐに学校に来てほしいだって」
 兄貴はすぐにドアから顔を出した。眉をひそめ、俺を見てからほんの少し考え込むと、言った。
「すぐ行く。先に下行っていろ」
 それに従い下で待っていると、すぐに兄貴は降りてきた。兄貴は玄関で鍵を掴むと、玄関の外へと消えた。彼を追いかけ、俺も外へ。学校へは車で移動した。
 十分足らずで学校に着くと、そこにはありえない光景が広がっていた。


 校庭に巨大なSDSがいた。色は、黒。
 俺は兄貴の後について、校庭に入って行くと既に対策本部の四人は揃っていた。彼らの元へ足早に近づく。
「これ、なんですか」
 俺が大声で尋ねると、エリーちゃんに両手で口をふさがれた。
「ちょっと、うるさいわね! 気付かれちゃ……」
 そう俺に大声で注意するエリーちゃんの口を今度はアリアがふさぐ。
「全く、エリーもうるさいよ」
 セシルが呆れたように言う。
「彼女もこんなことは初めてだから、ちょっと困惑してるんだ。許してやってよ」
 俺が無言でコクコクと頷いた。まだ、口はエリーちゃんにふさがれていたのだ。
「あ」
 ゲンが声を漏らした。その瞬間、地面に黒い影がかかった。みなゲンが見ている方を見るために顔をあげた。巨大なSDSが俺らを覗いていた。
「これは、ヤバいね」
 セシルがいつものへらへらした表情を崩し、口角を片方だけあげた。
 アリアも、エリーも手を下ろし、みな一歩ずつ後ろへ下がる。
 まるで、熊でも相手にしているかのように視線を外さない。
 そんな中、セシルが小さな声で指示を出した。
「一旦退く。アリアは僕と南側へ。エリーと雅人くんは東側。ゲンは和真を連れて西側に。合図したら一斉に走れ」
 みなが頷くのを確認しつつもセシルはSDSから目を離さない。
「散・開」
 一斉に走り出す。黒いSDSはどこを追ったらいいのか分からず、怯む。
 その間に、六人は走る。
「ゲ、ゲン! 一旦離れて大丈夫なのか?」
「さすがバスケ部。体力はありそうだな。俺らには携帯っていう文明の利器がついているだろう。とにかく今は隠れるんだ!」
 ふと、後ろを振り返ると既に残りの二班の姿は見えなくなっていた。黒いSDSはまだ姿が見える、俺らを標的に選んだらしい。体をこちらに向け、一歩を踏み出した。
 すると、SDSの左側頭部に光の玉のようなものが当たった。巨大ツォーンの意識がそちらへ向く。
「アリアだろう」
 今の内だ、そう言ってゲンは俺の腕を掴み校舎の影へ引き入れた。
 俺の胸の鼓動は今までにないぐらい早く動いている。な、何だ。どうすりゃ、あいつは消える。俺は何すればいい! 俺は自分の胸を抑え、荒い息をする。これは多分走ったせいじゃない。恐怖のせいだ。くそっ、嫌な汗かいてきた!
「大丈夫だ」
 俺の頭に手を置き、ゲンは言った。小さい声だが、ハッキリと力強く。
 その顔に似合わない大きな手が俺に安心を与える。俺は落ち着きを取り戻し、呼吸が整ってきた。それを確認したゲンは上着の内ポケットから携帯を取り出すと電話をかけた。
「ああ。俺です。一体どうします?」
 ゲンは何度か頷くと、電話を切った。
「一体どうするんだ?」
 俺はゲンに尋ねた。ゲンは俺を見、陰からそっとSDSの動きを確認した。
「いいか。言ってなかったがSDSはそれぞれの持っている能力で倒す。能力と言っても超能力という類じゃない。自分たちが出来ることをやりまくって、隙を作ったところで、あいつの鼻を殴る。それであいつらは消える。今までは大きくても俺ぐらい、あるいはもうちょっと上だったから楽だったけど、今回はキツイだろうな」
「SDSって殴れるの?」
「殴れる。殴ってやるって思えばな」
 俺は拳を握り、それを眺めた。あいつら触れるのか。
「それで、作戦は?」
「アリアがさっき投げた球。あれはアリアの念が籠ったボールだな」
 あいつだけ特別なんだ、といってほほ笑んだ。
「あれで情報が取れる。さっき聞いたら普通のSDSと特に変わりはないようだから。普通に倒す」
 そこで一呼吸置くと、ゲンは再び黒SDSの様子を確認した。特に変化がないことを確かめると、再び俺に向き合った。
「今回お前は初めてだが、少し大変な仕事してもらう」
 大丈夫、お前なら出来るよと肩をたたく。嫌な予感しかしない。
「ちょっと大変だが、あいつを転ばす。そうしなければ鼻は殴れない。そこで、お前はあいつの気を引け。その間に俺らは一本のロープを引っ掛ける、合図したら、そのロープに向かって走れ。お前にはそれが見えるがあいつらには見えないから避けられる」
 ほらやっぱり。予感は的中だ。
「で、でも!」
 俺の抵抗を遮るように、ゲンの携帯が震えた。
「はい。分かりました。代わります」
 ゲンは俺に携帯を手渡した。
『和真? セシルだよ。ゲンから作戦聞いた? ちょっと大変だけど頼む。僕らじゃ出来ないんだ』
 俺はうっと唸った。
 これは多分かなり危険だ。最初に遭った小さい黒SDSでも、とてつもない恐怖を感じさせたのだ。あの大きさなら、なおさらヤバイ。
 しかし、あの喫茶店であいつらの仲間になると言ったときから、兄と話したあの晩から、覚悟は決めていたではないか。ええい、男和真、一度腹括ったんなら、曲げるな!
『和真?』
 電話の向こうで、セシルがらしくない情けない声を出す。