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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第五回・禄 】白い天使に懐かれた

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そこにいたのは阿部郁恵
片手を桜の樹について握り締めた片手をフルフルと震わせて黙って緊那羅と京助を見て (睨んで?)いた
「こ…怖いんだやな;」
ゼンが身震いした
「ズェラシーメラメラなんだやな;」
ゴも身震いする
「ちょっとッ!!」
「ハィイッ!?;」
阿部が唐突にゼンゴに向かって声を掛けた
「悠今日はウチに泊めるって京助に言っといてくれるッ!?」
「いえっさーッ!!;」
阿部の言葉にゼンゴがシャキーンと背筋を伸ばして敬礼し返事を返す
「阿部さんっ」
大股で石段の方に歩き出した阿部に緊那羅が気づき呼び止める
「…何?」
精一杯の笑顔で振り返った阿部に緊那羅が沙織を抱いたまま小走りで近づいた
「ありがとだっちゃ」
そして満面の笑みでお礼を言う
「…え…?」
何に対してのお礼なのかわからず阿部が疑問形の返事をした
「さっき京助を助けてくれて本当にありがとだっちゃ。あのままだったら…」
そう言って緊那羅が唇を噛み締めた
「…別に…あれは…ただ…」
阿部も自分の行動を思い出して赤くなり俯く
「ぷぷぅ~…」
ヨダレまみれの手が阿部の前に現れた
「…可愛いね」
その手を優しく掴んで阿部が笑う
「ねぇ…ラムちゃん…貴方たちって一体…何者?」
阿部が静かに緊那羅に問いかけた
「いきなり消えたり周りを春にしたり飛んだり…そんな格好してるからはじめは本当サーカスか何かの人かと思ってたけど…いくらなんでもこんなこと人間じゃできないってアタシでもわかる」
手は沙織の小さな手を包んだまま顔は緊那羅に向けて阿部が言う
「ねぇ…一体何者? なんで…」
阿部の問いに緊那羅が俯く

「いいじゃん何者だろうと」
ひょいっと京助が犬に戻ったゼンゴ (コマイヌ)を抱えて話題に入ってきた
「エイリアンだろうとスライムだろうとダンビラムーチョだろうと俺は俺で阿部は阿部ってカンジにコイツはきんな…ラム子なんだからさ」
そう言った京助に緊那羅が軽い肘鉄を食らわせた
「京助…アンタ今DQしてるでしょ」
阿部が言うと京助が親指を立てた
「そう…だよね…ごめんねラムちゃん変なこと聞いて」
阿部が緊那羅に笑顔を向けた
「いや…あの私の名前は…;」
「アナタが何者でも負けないんだから」
本当の名前を言おうとした緊那羅の言葉に阿部の言葉がかぶさった
「さって…悠でも迎えに行くか…そういや慧喜とかってヤツ…は?」
コマとイヌを下に降ろして京助が伸びをして辺りを見渡した
「…帰ったっぽいっちゃ」
緊那羅も辺りを見渡して言う
「だぁぷぅい~」
沙織が緊那羅の髪飾りをヨダレでぬらしていった

コーッ という暖房の音が足元から聞えてくる
羽根布団の柔らかさが心地いいのかもぞもぞ動いてまた動かなくなる
「…あれ…?」
そしてふと自分の家の匂いとは違う家の匂いで目が覚める
「僕…」
泣いたせいで目が痛くあまり擦れない
しょぼしょぼする目を開けて周りを見渡して悠助は考えた
薄紫色に白いチェックの入ったベッドカバー、所々に飾ってあるガラス細工、壁にかけられた制服は女子の物
「そっか…阿部ちゃんの家なんだっけ…」
ゆっくりと体を起して伸びをする
「…すけ…」
声が聞えた様な気がした
「…緊ちゃん…?」
悠助の頭に緊那羅の顔が浮かんだ
「悠助」
今度ははっきりと聞こえた緊那羅の声
「緊ちゃん…迎えに来てくれたんだ」
笑顔で部屋を出てすぐの階段を駆け下りて悠助は揃えてあった自分の靴を履いた
「…待ってたよ…悠助」
ガチャリと玄関の戸が開いて悠助が顔を出した

「沙織!!」
着替えた緊那羅に抱きついてきた少し太めの女性
「うわっ!;」
突然のことで後ろに倒れそうになった緊那羅を阿部が支えた
その女性の後ろには警察の制服を着たおっさんと母ハルミそして若い女性が立っていた
「母さん…?」
「…貴方は…今朝の…」
緊那羅と京助がほぼ同時に言った
「畑福さんよ」
にっこりと笑って母ハルミが言うとやっと女性が緊那羅から離れた
「もしかして…沙織ちゃんのお母さん…だっちゃ?」
緊那羅が言うと女性が何度も首を縦に振り泣き出した
「じゃぁ…あの…あっちの…」
緊那羅が警察の横に俯いて立っている高校の制服を着た女性に視線を向けた
「私の娘です…このたびはとんだご迷惑を…」
太めの女性が涙を拭って緊那羅に頭を下げた
「義理のね」
若い女性がキツイ口調で言った
緊那羅が太めの女性…畑福さんに沙織を手渡すと女子高生はフィっと背を向けた
「朝起きるとこの子がいなくて…あの子に聞くと捨ててきたなんていうものですから…よかった…」
眠っている沙織を抱きしめて畑福さんが笑みを浮かべる

「…なんだかなぁ…同じなんだなぁ…いくつになっても」
京助がボソッと呟いた
「…京助?」
阿部が京助を見る
「わかってなかったのかね…わかってたはずなのに…まだまだだなぁ俺も」
一人で言って一人で納得している京助を見て阿部が眉を下げて笑う
「…高校生でコレだけなんだから…小学生の悠は…もっとだったんだろうな」
京助が言うと阿部が京助の背中を軽く叩いた
「悠待ってるよ? 早く行こ?」
そして先頭を切って阿部が歩き出す
「あ…阿部さん!! 京助!;」
畑福さんに掴まっていた緊那羅も小走りで後を追いかける
「…あんまり怒らないでやってってあのおばさんに言っといて? 誰だって構って欲しいのは同じだと思うし?」
京助が母ハルミにそう告げて阿部と緊那羅と共に石段を駆け下りていく
「…伝えておくわ」
フフッと笑って母ハルミが三人を見送った

「待っていたよ? 悠助」
緊那羅の声から聞いたことのない声にグラデーションのように変わっていく声
「…誰?」
阿部家の戸を閉めた悠助がきょとんとして立ち尽くす
「知りたい?」
口元だけがゆっくりと微笑んだ