幸せ
神様とやらがこの世にいるとしたら、ソイツは心底いじわるだ。
こんな悲しい罰を与えないでくれ。
「綺音…」
オレはここ最近、学校に行かないでバイトして、帰りはいっつも病院。
家にも帰らず、ひたすら綺音の手を握っていた。
綺音の事をこんなに気にかける理由も、もう気が付いていた。
オレは綺音の事が好きなんだ。
こんな気持ち、今更だけど。
ときどき、綺音のご両親に会うけど、とくに話す事もなく。
ただ頭を下げる。
綺音はもう酸素マスク無しではいられない状態。
それでも、オレが名前を呼べば手を優しく握り返してくる。
表情も、少し笑顔になる。
それが嬉しくて、けど悲しくて、でも涙は耐えた。
もうすぐ綺音は動かなくなる。
息もせずに、眠るんだ。
その日まで、オレはこの手を離さないよ。
「綺音……」
「ゅ………き」
「あやと…」
「好き…だ…」
「……オレも、好きだよ…」
「………ぁぃ…し……る」
「…、オレも…あいしてるよ…」
嬉しそうに笑って、そのまま綺音は眠った。