幸せ
オレは毎日毎日、飽きもせずに病院に通い続けた。
まるであの日のお前のように。
「綺音、なんか食べたい物とかない?」
「んー、今は腹いっぱい。」
あれから3ヶ月。
オレはいつもどうり学校帰りに病院に寄るのが日課になっていた。
だけど、今日は少し綺音の様子がおかしかった。
どこか、落ち着きない、ソワソワしている。
「…どうかしたか?」
「ん、あ、いあ、んと。」
やっぱり、落ち着きない。
「なんだよ」
「あの、さ……俺のお願い、聞いてくれるか…?」
「ん、あぁ」
「なんでも…?」
「うん」
「ほんとに…?」
「あぁ」
「嘘じゃない?」
「……うぜぇ…」
「ひどっ!」
「っ…いいから早く言えよ」
「あ、その…」
「……」
「……キス、していい、か…?」
コイツ…。
男同士だぞ…。
「…ゲイなのか」
「へ?ぁ、分からん」
…どうするかな…。
オレ今、マジで悩んでる。
コイツのいう事、なんでも聞いてやろうって決めた。
その理由が同情なのか、なんなのかは、今のオレにはよく分からないけど。
それでも、尽くそうと決めた。けど男同士でキス…とは…。
「…お前がしたいなら、してやるけど…」
「ま、マジで!?」
「ただ、その………男同士でキスして…何が嬉しいんだ?」
「へ……?」
綺音はうーんとか言いながら首をうねらせて考えている。
とくに何も考えてなかったのか…。
「てか、お前、オレのこと好きなんだ…?」
「うん。結構前に好きって言ったじゃん」
「……恋愛対象としてかよ…」
「うん。伝わらなかった?」
「………さぁな。」
なんとなく恥ずかしくて視線を背けると、綺音の大きくて細い。綺麗な手がオレの頬を撫でた。
「なぁ、由紀は俺ん事、好き?」
「………さぁ。」
「えー、なにそれ、そんな曖昧じゃキス出来なーい」
「……別に、すればいいだろ」
「んーー、俺さ、両思いのキスがしたい」
「…はぁ?」
「こう、どっちも相手のことが大好き!って状態のキスがしたい」
「…………」
「駄目?」
「…………綺音」
「ん?」
オレはたいそう、コイツに甘いらしい。
多分、コイツが抱かせろって言ったら、抱かせてしまうかもしれない。
そのぐらいコイツに…綺音に甘くなってしまったらしい。
「………好き」
その言葉ごと、オレの唇は綺音の唇に食われた。