鬼の瞳
土方の様子が可笑しいように感じた。
何時もだったら、もっと食って掛かるのに・・・・・・
屯所に来た事をこんなにやんわりと片付ける様な事はしなかった。
「どうして毎回のように此所に来るんだ!」とか「周りに迷惑かかるし、見つかったら厄介だから・・・」とか、そんなことを何時もなら行って来ているはずなのに。なのに今日は何も言ってこない。
「なぁ、土方、今日のお前変。何かあったのか?」
そう問われて胸が苦しくなったように感じた。意外だったからだ。何時もは自分の要求しか寄越さない此奴が、俺の事を心配してくれ居ていた。其れが意外で、驚いた。
「なぁ、聞こえてんの?人が折角心配してやってるのに。」
「あ、あぁ。大丈夫だ。何でもねぇーよ・・・ちと疲れが溜まってるだけだ。安心しろ・・・」
慰めの意も込めてそう言うと、銀時はあっさりと「ならいいけどさ。」と、簡単に引き下がった。珍しい事もあるようだ。その後はずっと静にしていた。
書類の数が半分にまで減った所で、土方はふと、銀時の存在を忘れていた事に気が付いた。
「あ、そういや、彼奴の事すっかり忘れてたな。銀時?」
ふいと背後を見てみると、自分の腕を枕に寝転けてしまっていた。
すやすやと気持ち良さそうに眠っている姿を見ると、起こすのが可愛そうになる。でも、今の土方の頭の中には違う思考が漂っていた。それは、あの夢。
鬼の目の様な色をしたあの人物。銀時にそっくりな気がして止まない・・・
もし此奴が、夢の中の彼奴と同一人物だったとしたら、何が出来るのだろう。そして、どうしてやれるのだろうか?此奴の口から自分の事情を話すことは滅多に無い。其れどころか、話そうともしない。俺が執拗にせまると何時も「何なんだよテメェーはっ!俺に何が聞きてぇーんだよ!!」って返される。下手すれば口も利いてくれない。
夢の中のあの人物も気になるが、銀時の出生も気になってしょうがない土方は、銀時の寝顔を眺めながらそんな事を考えていた。
もし此奴が、元攘夷浪士だった場合、俺は此奴を殺さなければならない。そんな事はしたくはないが、之ももう、決まった事だからしょうがないのかもしれない。そんな諦めにも似た感情が出掛かったが、其れを振り払った。
きっと大丈夫。そんな事は無い。と。