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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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祭り囃子

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「くそ、見つかんねぇ。もしかして、やつらすでに県境、越えたんでねえか?」
「太一だけならともかく、フィアンセ連れてっだぞ。簡単に林道さ突破できっかよ」

「だがもしトラックの荷台に隠れて脱出済みだったらどうすんだ? 俺達の苦労も水の泡だぞ」
「それもねぇって! 上里の吾朗ちゃんが、念入りに村ぁ出る車をチェックしてたしな。ねんの為、荒木田に先回りして、村から出る者(もん)をチェックしてたコウタ君からも出たもんはいねえって返事だ」

「とすると、隠れてんのは、やっぱ、この辺りか・・・太一ィ〜、隠れてんのは分かってっど! みんなに世話やかさんで、さっさと出て来んか〜!」


 俺達は、鬼の形相で捜索する村の若衆達に見つからぬよう、藪の中に身を潜めて彼らが通り過ぎるのを待った。
 
 
「やっぱ、いねえ。太一ら案外沼渡りで、古比野に出たかもしんねえぞ」
「だから、始めっから言ってたがよ。よし今から俺の新車、プリウスで追っかけッぞ!」
 そう言いながら若衆は去って行った。


「どうやら、まいたわね」
 今まで恐怖のあまり、震えていた奈津美が、蜘蛛の巣をはらいながら顔を出した。

「ああ、こんなことに巻き込んですまなかった。だがもう大丈夫だ」
 俺は奈津美を抱き寄せた。

 
 この騒動の発端は、奈津美を両親に紹介する為、生れ故郷の宇多崖村に連れて来たことにある。
 俺と奈津美は同じ会社の部署に努めているのだが、盆の時期を避け、GWに村を訪れたのには訳があった。


「すまん。あの時、もっと早く気付くべきだった」
 俺は奈津美に詫びながら林道に引っぱり上げた。

「あの時って、太鼓の音が聞こえた時?」
 奈津美が、数日前に買ったばかりの服についた若葉を払いながら尋ねた。

「そうだ。普通、あの太鼓は恩知帰(おんちき)祭の前日にしか叩かない。俺はてっきり若衆が祭りに備えて練習してるんだと思ったんだ」

「家に着いて、お兄様から『恩知帰祭が明日になった』と聞いた時は青ざめてたわね」

「そりゃ、そうさ。おまえだって、見物人も含めて全員強制参加だって聞いた時は、すぐ帰り支度を始めたじゃないか」

「あたりまえでしょ。あんなに恐ろしい祭りだなんて思わなかったもの。この村は山も野原も最高だし、幽玄沼もびっくりするほど綺麗なのに、祭りはいただけないわね」

「古くからの伝統だからね。一年に一度と決められた開催日は選べるものの、内容は変えられない。それにしても以前は盆の時期にやっていたのに、わざわざ俺達に合わせて時期をずらしてくるとは思わなかったよ」

「たぶん兄さんの差し金ね」

 奈津美が髪の毛にこび突いた枯れ枝を引き抜きながら笑った。

 たぶんその推察は当たっているだろう。
 俺が事前に奈津美を連れて両親に会いに行くと連絡をしておいた為だ。
 
 村は、新しい家族(奈津美)を受け入れる為、今年から祭りをGWにしてくれたのだ。
 無論、その気持ちはうれしいのだが・・・。


「キャー!」
 突然、奈津美が悲鳴を上げた。
 その瞬間、(しまった! 若衆が帰ったと見えたのは罠だったのか)と、思ったが遅かった。
 俺達は川漁に使う投網を頭から投げかけられていた。

「へっへっへっ、太一、観念してもらおうか」
 そう言いながら現れたのは他ならぬ兄貴だった。

作品名:祭り囃子 作家名:おやまのポンポコリン