小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ひとりぼっちの魔術師 *紅の輝石*

INDEX|1ページ/10ページ|

次のページ
 

1.僕の幸せの風景、その後で。



-ちょっとした昔話だよ。
 誰も欠伸をしてつまらなそうな顔をする。
 その程度のものなんだ。-


僕は昔、生れた経緯を知らなかった。
だけれどそれを不幸とは思うことなかった。
周囲には明るい声があって。
とても幸せだった。

おとうさんも、おかあさんも。
おじいさんも、おばあさんも。
おじさんたちも、おばさんたちも。
おにいさんたちも、おねえさんたちも。
皆優しかった。
暖かかった。

彼らは僕に、世界の話をしてくれた。
それは、伝説と呼ばれるもの。
御伽噺とされるもの。
仮説となっているもの。
真実と位置づけられているもの。
小さな箱庭で広がる空間の物語。
話をする彼らの声色は、何時も弾んでいて。
僕は大好きだった。

世界を愛し、万物全てを愛していた人たちに囲まれて、僕は。
「幸せ」だと言う感情を手に入れていた。

彼らの言葉は、スープのように滑らかで。
僕の心を満たす。
彼らの僕より大きな手や長い腕は。
僕の魂を満たしていた。

記憶の片隅にあるのは、光る風と緑萌ゆる木々。
出される香りの良い紅茶。
甘い砂糖菓子。
色鮮やかな果物。
そして…。
朱。
否、銅。

あの日の僕は、何をしていたんだろう。
振り返っても何も覚えていない。
覚えていない。
-…思い出せない。-
断片的に。
枕に頭をつけると思い出すものはある。

色褪せない瞳。
飛び散った主を待つもの。
そして、数え切れない足音たち。
半狂乱のような叫び声と、奪い合う物音。

-怖い。-
これが、僕が最初に覚えた、負の感情。

呆然と立ち尽くす僕を、受けから黒い影が覆った。
いやらしく曲がった口元が印象的だった。
その後、僕は少し記憶の本を閉じる事になった。