竹殺物語《タケトリモノガタリ》
0.プロローグ
昔々、地球には大きくて丸い月がありました。月は夜の世界を照らし、人々の生活を豊かにしていました。
しかしある時、その月が破壊されるという大事件が起こりました。原因は不明でしたが、月の上部は粉々に砕け散り、常に欠けた姿になってしまいました。
砕かれた月の破片が地上へと降り注ぎ、世界中の大地は次第に死に枯れていきました。
その後にも不幸は続きました。月が砕かれた事により、地球との力の均衡が崩れてしまったのです。
崩れた均衡は天変地異に変わり、人類を苦しめ続けました。
彼らは絶滅の危機に瀕していました。
けど、希望は潰えていませんでした。ある時から、人類の中に右目を金色に輝かせる者が現れたのです。
月から降り注ぎ、大地を死へと追いやった原因である月の石《ムーン・ストーン》。その鉱石には、人体に眠る特殊能力を解放させる力がありました。
人々はこの力を月からの恵み、月光《ルナ》と呼びました。人類は月光《ルナ》を持った人たちと力と技術を合わせ、危機を脱しようとしました。
そして彼らは完成させたのです。
超巨大疑似衛星、桃源郷、人類の新天地、そして月の代用物と呼ばれる“Moon”を。
Moonが完成してから、数百年が経ちました。
人類の技術力も進化し、Moonは移住先としての意味も見出されてきました。
最新の技術が揃うMoonは楽園と言っても過言ではない場所であり、人々は我先にと昇ろうとしました。しかし、実際にMoonへ行けるのは、研究者や技術者、富豪などの恵まれた人たちだけでした。
一方大地は、自らの姿を変えることにより、その影響を最小限に抑えようとしました。海によって隔てられていた地が、一つになり始めたのです。
天変地異は治まりましたが、大地の衰退が止まる事はありませんでした。時間が足らなかったのです。
巨大になった大地は、Moonの住人にこう呼ばれるようになりました。
統合大地、無限の荒野、死に行く地、そして忘れられた世界“Gaia”と。
絶滅の危機を脱した人類でしたが、彼らは大地に目を向けず、ただただ天を目指しました。
しかし、荒廃した世界にもまだいくつかの都市が存在していました。経済的な理由でMoonへ上がれない人、母なる大地を何とかして蘇らせようとする人、そんな様々な理由で集まった人々が街を築きました。
Gaiaの極東にも一つ、街がありました。その街の名はジャルバ、天上の楽園Moonに次いで地上の楽園とまで呼ばれた都市。
娯楽と狂気、金と陰謀、正義と悪の豪遊都市、ジャルバ。
灰色がかったこの街から、私と彼の物語は始まるのです。
――――竹殺物語《タケトリモノガタリ》の始まり、始まり。
作品名:竹殺物語《タケトリモノガタリ》 作家名:零時