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ストレス

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「あれ?四ヶ野?」
 駅を降りて直ぐに、高校の同級生に再会した。いや、間違い。
同じ高速バスに乗っていて、荷物を下ろしている時互いが互いに気付いたのだ。バスの行き先案内を見返す。
「お前、県外組だったのか」
 言うや、まーなと笑う宮名(みやな)は、昔の面影というより昔のままで、それは女の子としてどうなのだろうか。
「あんた変わんないね…?」
 僕もどうなんだろう?ギリとは言え十代の男の子として。
 お互いにしみじみ変わらないとこぼしつつ、話ながら歩きだす。
 白い橋の辺りでぱたりと会話は途切れた。
 この道は僕らが通った母校へ続いている。
「ねえ」
 宮名は、なんの小細工も無い顔で真剣にこちらを見た。一瞬、告白!?モテ期!?なんて有り得ない夢想をしたが、有り得ないのでその些細な期待は極簡単に散らされる。
「四ヶ野は、どうやってストレス発散する?」
 まさか?いやいやまさかね。だって宮名に美女は付いていない。まあ、彼女とて県外できっといろいろあったんだろうさ。例え田舎県民から田舎県外への旅立ちだとしても。
「えとカラオケ?」
 嘘です。ごめん。高校卒業してからこの方一度も行ってない。
 …家着いたら、行くかカラオケ。
 そんな内心を隠して、宮名を見れば宮名は、うんそうだな、と納得していた。
「お前は?」
「は?」
「ストレス発散」
 聞き返されると思ってなかったという顔。そして、不意に
「四ヶ野ってさ…お」
 不意に途切れた先。僕らは再び遭遇した。
 高校同級生に。
「エビじゃん」
「エビだな」
 因みにエビはAとBの略である。AくんとBちゃんは付き合っている。ラブラブ過ぎて、彼らのことは身内ではエビと呼んでいる。エビは2人揃っていた。揃っていただけでは無い繁殖…違う。増えていた。
通り一本向こう側、Bちゃんが俺らに気付いて盛大に手を振っていた。落ちる!落ちるってCが!Aが慌ててお子さんを取り上げ抱き直している。ナイス。



 地元のローカルファミレス。目の端で、美女が気だるげに寝そべっている。店員と客が行き交うなか、彼らは美女の体内を通って出入りをしていた。スカートの中から、中年のおっさんが出てくるなんてざらで、妙な気分になる。ずず、とドリンクをすする音に、はっとして意識を同級生らに戻した。
「君ら付き合ってたの?」
 Aくんのとんでも発言に、僕らは揃ってぶんぶんと首を振る。
「じゃあ何で一緒に居るの?」
 Bちゃんの質問に、宮名がバスが同じでと答える。僕が、その後を引き継ぐように口を開く。
「帰る方向も一緒なんだよ…ていうかエビ。結婚したんだな?おめでた?」
 にやにやと下世話に見えるようにわざと其方に注意を向けてみたら、じ ら い 。
「あ、ごめん。あたし、浮気したの」
 空気が凍結した。Aくんの頬が、盛大に引きつっている。心なしか、胃の辺りをさすっているような…。
「げ、最悪」
 そういうのは、思ってても口に出しちゃいけないんだぞ宮名。といっても、地雷踏んだ僕が言える立場ではないけれど。Aくん、痩せたな。
「だぁって!ダーリンが!お前に手を出せるかっ!て」
 うううと泣き出すBちゃんに、子供椅子に乗せてたお子様Cが泣き出した。二重奏。慌てたのは僕とAの男性のみで、宮名はしらーとエビ2人をみている。
「か、カラオケ行こうぜ!」
 僕は、このいたたまれない空気を、又はBちゃんの涙を止めようと立ち上がって宣言した。
「ほら!ストレス発散ストレス発散!」
 横目に美女を確認すると、今度は、胸からウェイトレスが出てきたところだった。



 中途半端に大人側な僕らは、カラオケ屋に入るや、酒ばかりを注文して、酔った。酔いつぶれた。酔った視界で、美女が入り切らなくてドアから顔半分を覗かせ、そのちょっと開いた半分スペースから知らないナイスミドルなおっさんがこれまた顔半分を覗かせているのが見えた。
 そしてお子様Cの背後で、2メートル位の美少年が、ごろりと横になっている。


 ああ、ストレス溜まるもんなぁ世の中。
 そんな事を思ったのを最後に僕の意識は飛んでいった。

作品名:ストレス 作家名:謹祝