りんみや 陸風4
城戸を追いやってから、寝台に座っている子供に頭を下げた。
「・・・悪かった・・・あれしか咄嗟に思いつかなくて。痛いだろうが、今日一日は辛抱してくれ。すぐに治る。」
「ううん、ありがとう、たっちゃん。りっちゃん行かなかった。みあでは追い付けなかったの。リィーンがいないから・・・りっちゃん壊れたの。いつもはリィーンがりっちゃんを見ていてくれてるの。」
城戸の精神状態は不安定で、時折、沈む。それを止めていたのはリィーンだった。本日は、浦上と瑠璃に連行されるように検査に連れ出されていた。もし、万が一、城戸が沈むなら意識を奪えと命じられていたが、城戸の意識が壊れていくので子供には奪うのが難しかったのだ。
「リィーンが? じゃあ、リッキーは度々、ああなっていたのか?」
「うん、毎日・・・でも、いつもはリィーンが止めてるの。難しくてみあにはわからないけど、リィーンがりっちゃんを壊さないようにしてくれてる。」
瓦解してしまわないように、リィーンが精神を保護しているということだ。おそらく、屋敷に現われてから今まで、ずっとだ。
「でもね、りっちゃんの心ね、少しずつみあのことで埋まっていくの。全部、埋まったら、りっちゃんは壊れなくなるの。」
「そうか、頼む、美愛。リッキーを助けてやってくれ。」
あんなに苦しむことはない。亡くしてしまったものを悼むのに、自分まで無くしてしまいそうだ。やはり城戸は壊れていたのだ。一枚のファックスが城戸から生き甲斐を奪った。おそらく、その時点で城戸は壊れた。当人も気付かないうちに少しずつ侵食されるように精神を蝕まれている。リィーンの命令は、そういう意味も含めてのことだ。城戸から子供を奪ったら、城戸は精神的に死んでしまうから引き剥がすな、と命じた。
「大丈夫、みあはりっちゃんが大好きなの。みあもりっちゃんは傍に欲しい。」
にっこりと子供は笑って頷いた。多賀は城戸を助けるために自分を傷つけた。多賀は悪者だが、そうではない。これが、りっちゃんの教えてくれたことだ。
「あのね、みあ、たっちゃんも大好き。」
「ふーん、そういうもんなのか? ・・・悪かった・・・痛い思いさせて悪かった。」
「ううん、たっちゃんのほうが痛そうだよ。みあ、わかる。」
多賀の胸の痛みは、ものすごい。自分が痛いことより、それのほうが痛そうだ。だから、子供は怒らない。それしかなかったから、多賀はそうした。その痛みを覚えることも承知で、やってくれたのだ。
「やっぱり、おまえはとしちゃんの娘だ。いい子だな。」
同じ面差しの顔に多賀は頬を歪ませた。本質的なやさしさは受け継がれている。素直に嬉しいと微笑むかの人は、やはり娘に息づいていて、同じように娘も微笑む。