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天気予報はあたらない

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 悟志が帰った後、部屋の片づけをしていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 「はい。どーぞ。」

 扉のほうに目をやると浩二だった。

 「何、浩二。」

 いつもよりも深刻な目をした浩二はさらに威圧感を増していて、兄弟でも怖く感じる。

 「兄貴、泣かしたのって、俊さんだったんだ。」

 ああ、そのことか、と思った。そういえば、前にそういう話になったときに、驚異のブラコンぶりを発揮して、泣かした奴を殴るとか言ってたっけ。

 「だから、何さ。ってか、盗み聞きしてたんだー。やだ、変態。」

 おもいっきり茶化す。盗み聞きという単語を発した途端に、浩二の顔が申し訳なさそうに曇る。

 「別に、盗み聞きじゃねぇし、聞こえたんだよ。」

 変な言い訳ですら、かわいく感じてしまう。先ほど浩二に向かってブラコンと言ってしまったが、そういう自分も相当かもしれない。

 「それで、だったら何。あ、殴るんだっけか。」
 「そうだよ、悪いか。」
 「駄目だよ。俊二は俺の大切な奴なんだから。」

 そうだよ、これが今日分かった一番大切な事なのだから、いくら兄弟愛が素晴らしくてもそこだけは死守しなくてはいけないと思う。

 「兄貴。」

 急に目の前に来たかと思えば、抱きすくめられる。

 「浩二、何やってんだよ。」
 「オレじゃ頼りになんないか。」

 何、急にしおらしくなっちゃって。変なの。

 「頼りにしてるよー。重い物とか持ってくれるし。」
 「そうじゃなくって。」
 「じゃあ、なんなのさ。」
 「オレが守ってやるって言ってんの。」

 急に何を言い出すかと思ったが、そんな独占欲丸出しの言葉に、それは、彼女に言うべきであって俺に言うなんてお門違いだと思う。

 「ははは、はいはい、わかったわかった。」

 笑いながら抱きしめられた腕を放そうとする。浩二はさらにきつく締めてくる。

 「馬鹿にすんな。」
 「そろそろ、暑いんだけど。浩二、のけ。」

 そう言った瞬間、腕が緩んだので抜け出そうと振り返ると怒りの形相でこちらを睨んでいた。

 「何、そんな怒っちゃって。」

 これは、なんだ。思春期特有の反抗か。そう問いかけてもじりじりと無言のまま部屋の奥の方へと追い詰められていく。ついには壁にまで達してしまって、これは殴られるのではないかと思うほど二人の距離が接近してしまっている。逃げ道などもうない。殴られると思ったのでとっさに目をつぶると、唇に生暖かいものを感じる。

 ――浩二、何、やってんの。

 抵抗しようにも力の差が歴然過ぎて、敵わない。逆に抵抗しようとしたことで口が緩んだ瞬間、舌まで入れられる始末。何気に上手いのがさらに腹が立つところだ。

 俺、弟とディープキスしてるよ、今。

 やっと離れたかと思うと、頭が混乱して上手く話すことができない。

 「コー……。」
 「オレは、兄貴のためだったらこんなことだって出来んだ。だから、兄貴はオレをもっと必要としてほしい。」

 アホだった。そうだ、浩二は超ド級のアホだったんだ。何事も直球勝負というか、変化球を知らない。きっとさっきの悟志とのキスを見てたんだと思う。それで、忘れられないように自分の存在を焼きつけようと必死なのだ。頼られている弟というポジションが誰かに盗られてしまうのではないかと変に勘ぐってしまったんだろう。

 「はいはい、わかったよ。お前が一番にするから。だから早く、そこをのけ。」
 「お、本当か。」
 「はいはい、本当ですよ。」

 まるで大型犬のようだ。こんなすぐに破ってしまえるような安い言葉なのに、さっきまでの態度とは裏腹に嬉々としている。しっぽが見えるとはまさにこの事なのだろうか。

 ――まぁ、そんなに気持ち悪いと思わなかった自分も自分だしな。

 そう自己分析をして、そこにいる大型犬に一つ命令を下す。

 「じゃ、早速。このコップ、台所に持ってってよ。」
 「お、おう。」

 パシられているのか頼りにされているのかという二つの思いの中で気持ちが揺らいでいるのか、返事はやや不明瞭だったが、考えることすらめんどくさくなったのだろう。嬉しそうにコップを持って部屋から出て行った。

 「少しは鍛えようかな。」

 あのアホの事だ、間違えを起こさないとも限らない。その時に少しは抵抗できるくらいの力はあった方が良い。
 好かれていることは悪くはないのだが。

 「まいっか、今日は。」

 折角、色々なものを雨が流し去ってくれたのだ。あとは、雨でも流せなかったものを大切に育んでいくだけだ。多少、余計なものもできてしまったがこれはこれでいい。
 しばらく見てなかった携帯電話に目をやるとメールが来ていて陽子と俊二からだった。二人とも偶然にも内容がほぼ同じ内容で、少し笑ってしまう。

 「だから、コンビニのビニール傘は返してもらわなくていいんだって。」

 そう呟いてから、適当に二人に返事のメールを作る。といっても、受信の時間からだいぶ経ってしまっているので心配かけないように言葉はとても慎重に選んで、かつ、重くならないように軽快な気持ちを乗せて送る。俊二にはこれから宣戦布告するつもりでさらに気持ちを上乗せするようにして、送る。もちろん、傘はいらないと両名に念を押して、お礼がしたいなら別のものがいいと軽く冗談を加えつつ、送る。

 傘といえば、昨日の天気予報では明日も雨って言ってたような気がする。そうだ、明日も今日と同じく、明日は大雨で、傘は必需品ですって自信満々に言っていたはずだ。

 「明日は晴れたらいいな。」

 そう一言呟いて、窓から空を見上げた。

作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂