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天気予報はあたらない

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 啓太に、先に行って、といわれたので、一人、教室へと向かう。屋上のドアをあけると、階下に広がる学園祭の準備に追われるガヤガヤとした学生たちの声が広がり、先ほど繰り広げられた非現実との落差に内心ホッとしてしまう。

 ――おれは、ケータのことどう思ってるんだろう。

 階段をおりきって、やっと忙しそうに廊下を駆け巡る他の生徒たちとすれ違い始めてから、さっきのキスに対する、自分の気持ちに整理をつけようと考え始める。

 まずは単純に友達として好きかどうかについて。これは、間違いなくイエスだ。嫌いだったらここまで何年も幼馴染を続けていない。
これほど確信的で、全世界が間違えているといわれても、曲がらない自信がある答えである。きっと、啓太もそうなのであろうと、なぜか自身もある。うぬぼれていると思われても仕方ないが、それほどずっと一緒にいろんなものを見てきたのだ。

 もちろん、幼馴染として。

 じゃあ、それを乗り越えた場合は、どうか。その壁を破ってしまうかもしれないという危機的状況が訪れるなんてことすら、考えていなかったおれにとってこの命題は、ふだんからまったくもって苦手な数学よりも難しく、
部活でやっているバスケットの技術の向上よりも、その高みははるか向こうの世界にあるように感じた。

 なんか、頭痛くなってきた。
 男とキスをして、嫌じゃないとは、いったい何なのだろうか。

 「わかんねぇな。」
 「なにがだよ。」
 「うわっ、びっくりさせんなや。」

 考えることに夢中で、無意識に教室のドアを開けた瞬間、急に目の前に独り言に反応されて驚くと、そこには悟志がいた。

 「驚いたのはこっちだっ。そんなおっきな体で、ぼーっとすんなって。」
 「あ、ごめん。」
 「ごめんじゃねーよ。まったく、こんな長くいなくなるとか、まじありえねーし。」

 悟志は汗をかいていて、きっとなかなか戻ってこない俺らを走り探していたのだろう。
なんか、もうしわけないな、と思った。

 「探してくれてたん。」
 「そうだよっ。お前らなかなか戻ってこないからさ。」

 お前ら、といったのが気になったので、後ろを振り返るとちょうど啓太が戻ってきたところだ。

 やばい、動揺してしまう。

 まだ自分の考えがまとまっていない分だけ、普段の自分のスタンスが築けない。おれのここでの立ち位置はいったいどこだ。
 とりあえず、啓太の反応をうかがう。

 「なんだよ、俊二。そんな顔して。」
 「ケータ、大丈夫なのか。」
 「大丈夫って、なんだよ。ほら、悟志が困ってるみたいだし、練習しようぜ。」
 「お、ケーちゃん、いいこと言うな。そーだよ、早くしないと、学園祭、間に合わないぜ。」

 悟志が啓太の腕をつかみ教室の中へ招き入れる。すれちがいさまに、ごめんなという声が聞こえたが、きっとそれは、自分のわがままをフォローしてくれた悟志に対してだろう。

 「ほら、俊二も、はやくこっちこいや。」
 「ケータ……。」

 あぁ、もうなかったことなんだな、ケータの中では。

 あまりに、啓太の反応が普通すぎて、さっきまで悩んでいた自分がバカみたいに感じる。
そういえば、それでいいのだ。自分で、忘れろと言ったのだから、そうしてくれている相手に感謝するべきなのだ。

 「はいはい、わかったよ。今行く。」

 これが、正解なのだ。幼馴染として、幼馴染らしく、限りなく普通に接する。こんな簡単な答えがあるのに、なにをやっているんだ、おれは。

 あのときのキスが嫌じゃなかったのは、幼馴染だからだ。
 あのとき、啓太があんな顔をしたのは、幼馴染だからだ。
 おれがここまでうじうじ考え込んだのは、幼馴染だからだ。

 「よし、やるか。」

 無理やりにでも解決したのだから、前に進むしかない。やっと普段のおれが戻ってきた。
こんなに都合のいい答えが、こんなに近くに転がっているなんて、なぜ気付かなかったのだ。

 そういえば、昔からそういうところがある。一つの答えを導き出すのに、遠回りしてしまうのだ。勉強だってそうだし、得意としているバスケだっていつも遠回りばかりだ。でも、おれはいつもそれを努力でカバーしてきたじゃないか。
 ならば、これも努力でカバーしなくては。いつも通りの俺らの関係にカムバックするためなら、なんでもする。

 これでなくっちゃ、おれとケータは、
 こうじゃなくちゃ、いけないのだ。

作品名:天気予報はあたらない 作家名:雨来堂