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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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【第五回】 垂れ流しからの恩恵

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「京助」
月明かりでぼんやりかろうじてそこにいるのが誰なのかがわかった
「…寝ないのか?」
仏壇の前に座っていた京助の隣に緊那羅が立った
「京助こそ…また遅刻するっちゃよ?」
「…も少ししたら俺も行くから…」
京助が仏壇を見ながら言った
「なぁ」
部屋に戻ろうとした緊那羅を京助が呼び止める
「…俺って…俺と悠って何なんだ? どうして…お前等も父さんもそんなに必死で俺と悠を守るって言うんだ? 俺は大統領でも殿でも有名人でもねぇのに…」
風で窓がカタカタとなった
「…京助…私は…」
「あ…あ~そっか; 忘れてたお前何も知らないって言ってたっけな; スマン;」
言葉に詰まった緊那羅に京助が笑いながら謝った
「きょ…」
「さーって!! 寒みぃし寝るか!」
何か言おうとした緊那羅の背中を押して仏間から出ると廊下に迦楼羅の姿があった
「…何してんだ?;」
京助が緊那羅の背中に手を当てたまま迦楼羅に聞いた
「今はまだ多くは言えないがな…一つだけ言っておきたいことがある」
迦楼羅がゆっくり京助に近づいた
「…京助…これから何があっても自分の存在理由から逃げ出すな」
迦楼羅の言葉に緊那羅がきゅっと唇を噛み締めて俯いた
「…存在…理由?」
京助が繰り返すと迦楼羅は背を向けて暗い廊下を歩いていった
「…何なんだ…?;」
いきなりわけのわからないことを言われた京助はしばらく呆然とその場に立っていた

「騒がしくてごめんなさいね」
母ハルミが京助の弁当を包みながら言った
「はい緊ちゃん」
そしてその弁当を京助ではなく緊那羅に手渡すと緊那羅が小走りで玄関に向かっていった
「ってきまーすッ!!」
玄関から聞こえた京助の声と
「京助! 弁当忘れてるっちゃ-----ッ!!」
それに続く緊那羅の声
栄野家の毎朝の恒例
「…毎日こうなのですか?」
戻ってきた緊那羅に乾闥婆が聞いた
「え? あ…うん;そうだっちゃ」
緊那羅が答えた
「京助は朝によわいんだやな」
部屋の隅でゴ(イヌ)が言った
「昔からかわらないんだやな」
ゼン(コマ)も言う
「…貴方たちは…」
「お前たちの主は誰なのだ?」
乾闥婆の声に迦楼羅の声がかぶさった
「迦楼羅…」
緊那羅が降り向くと迦楼羅が近づいてきた
「京助と悠助の父親…というのは昨日ハルミ殿から聞いた」
迦楼羅の言葉に二匹が顔を見合わせた
「そうなんだやな」
ゼン(コマ)が頷く
「…栄野兄弟の父親…まさかとは思うが…」
迦楼羅がチラっと乾闥婆を見た
「…その可能性は大きいです…丁度時期的にも合いますから…だとしたら京助と悠助が選ばれた理由も幾分か納得いきますし」
乾闥婆(けんだっぱ)が言う
「…彼なら…【式】を使えてもおかしくはないですから」
「…そうだな…どちらにせよ…緊那羅」
迦楼羅に名前を呼ばれて緊那羅が顔を上げた
「…わかっているな? この事は二人に話すな…【時】がくるまでは…そして…」
「わかってるっちゃ」
緊那羅が迦楼羅の言葉を止めた
「京助と悠助は…何があっても守るっちゃ」
緊那羅のその言葉に迦楼羅が頷く
「…迦楼羅」
乾闥婆が迦楼羅に声をかけた

「…また…あんなことが繰り返されるのですか…?」
乾闥婆が自分の服の裾を握り締めた
「今度は京助と悠助が僕と同じ思いをするのですか…?」
乾闥婆の肩が小さく震える
「…乾闥婆…」
緊那羅が乾闥婆の顔を覗き込んだ
「…すまなんだ…わ…」

ぐきゅるるるるるるる…

シリアスな場面が音を立てて崩れた
「…迦楼羅…」
乾闥婆と緊那羅がハモって言った
「ハラヘリなんだやな?」
ゼン(コマ)が迦楼羅を見上げて尻尾を振った
「だっ…誰のせいだッ!!;」
迦楼羅がゼン(コマ)に向かって怒鳴った
「ゴ等は悪くないんだやな」
ゴ(イヌ)が言うと
「なー?」
といって二匹揃って首をかしげて笑うと緊那羅も苦笑いを浮かべる
「お…お前等はっ…っ;」
迦楼羅が顔を引きつらせながら言った
「かるらーん、けんちゃん、緊ちゃん朝ごはん食べちゃいなさい」
台所から母ハルミの声が届いた
「はーいっ迦楼羅丁度よかったっちゃね」
返事を返して緊那羅が迦楼羅に言うと迦楼羅の顔が何処となく嬉しそうな顔に変わる
「ゼン等もハラヘリなんだやな」
ゼン(コマ)とゴ(イヌ)がトテトテ走って台所に向かっていく
「私たちも行くっちゃ」
緊那羅が迦楼羅と乾闥婆に言った
「…そうですね…行きましょう」
乾闥婆が迦楼羅の背中をトンと押した
「うむ…」
迦楼羅が歩き出すと緊那羅が部屋から出た
最後に部屋を出た乾闥婆は誰もいなくなった部屋を見渡して眉をひそめた
「乾闥婆…?」
迦楼羅に呼ばれて乾闥婆が部屋の戸を静かに閉めた