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りんみや 陸風2

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 そう言われて、えっ?と城戸は顔をあげた。心配されているなど夢にも思っていなかった。その様子に、おいおいと多賀は困り顔だ。スタッフではあるが、それよりも前に友人だろうが・・・とため息を吐いた。
「・・・あのな、リッキー・・・見えない篭というのはスタッフとしてオーナーのオーダーに逆らってでも、としちゃんを守ろうと決めたことだろ? その時点で、俺達は仕事仲間というよりは共犯者の関係になってるんだ。・・・おまえは、その主犯格だろうが、仕事としてなら、何もおまえはとしちゃんに付き合う必要はどこにもなかったんだからな。俺等が互いを友人として付き合うのは当たり前じゃないか。おまえ、今まで俺のことをなんだと思ってたんだ?」
「あっ・・・ごめん・・・そんなこと考えたこともなかった。心配されてるなんて思っていなかったから・・・そういえば、定期連絡のたびに葛がごちゃごちゃ言ってたなあ。あれは、そういう意味だったのか・・・」
 定期連絡をすると、葛は時候のことから始まって、体調のことや、食事のことなど細かな世間話をしていた。面倒だったから、用件だけ言うと即効で切っていたのだ。何度もそんなことが続いたので、自分のスタッフを通して連絡していたくらいだ。
「あんまり世間話するから、五月蝿くって・・・」
「世間話じゃない。あれは体調の確認をしてたんだ。それなのに、おまえときたら他人委せの連絡に切り替えてしまうし、取りつく暇もないって葛が嘆いていたぞ。」
「ごめん、後で葛に連絡する。タガーも心配してくれてたのか?」
「当たり前だ。・・・・ほんとに、おまえはバカだな。十年も一緒にやってきたスタッフだぞ。おまえがどうなってるかぐらいは察しがついてるよ。」
 ゴインと軽めに頭を叩かれた。あいかわらず、口より先に手が出る。孤独な世界に戻ってしまったと思い込んでいたが、そういうわけではなかったようだ。自分で勝手に殻に閉じ篭もっていたのだと、やっと城戸にもわかった。
「まあ、多賀くん。病人なんだからお手柔らかにな。どうせ、すぐに志郎が来て、こっぴどく説教されるんだ。ほら、噂をすれば・・・」
 ヘリのエンジン音が遠くに聞こえるのを、リィーンは上を指差した。もしかして、全員からこんなふうに説教を食らうのかな、と城戸はげんなりとした。そんなふうに気遣ってくれる友人が居たことは、なんとなく嬉しいのだが、全員から同じように文句を言われるのは面倒だ。部屋に戻ろうと腰を上げると見透かされたように、多賀に肩を押さえ付けられてソファにもう一度座り込まされた。
「逃げても無駄だ。クッキーが一番、煩かったんだ。ちゃんと謝ったほうが身の為だ。そうでないと、一生、病人のレッテルを貼って出してもらえなくなるぞ。」
「そこまでされるいわれはない。」
 城戸が反論すると、多賀は笑って首を振った。ここ五年で、九鬼は第一秘書から当主代行に地位が変わった。それは城戸も連絡を受けている。オーナーの惟柾が引退して、すべての事業を九鬼の手に委ねてしまった。つまり、城戸の処分は九鬼の判断次第ということだ。それに伴って、リィーンは九鬼に水野の籍に入るように勧めたのだが、相手は頑として首を縦に振らず、本来ならニューヨークオフィスでデスクにふんぞり返っていられる身分なのに、日本のリィーンのオフィスに居着いているのだ。
「俺は、みやの友達で、兄弟じゃない。ハムスターが後を継げるまでは、当主代行をするけど、それからはハムスターがやればいい。水野のことなんて、それ以上でもそれ以下でもない。」
 九鬼はそう言って、リィーンの命令に逆らった。それは、九鬼が歳幸の子供を次期当主としたいと考えているからで、自分の子供がよからぬ気を起こさぬための防護壁でもあった。けれど、トップであることに変わりはない。
「現在はクッキーが、水野のトップだ。つまり、オーナーだな。だから、オーナーからオーダーが出たら俺はそれに従うし、逆らうつもりはない。リッキーを軟禁しろというなら、喜んで従うから。」
 多賀がそう説明すると、おいおいと城戸は手を振った。そんなオーダーは聞いたことはない。それに、自分と惟柾との契約事項にはノルマさえこなせば問題なしという条項があったはずだ。それを城戸が口にすると、今度は多賀が手を振った。オーナーが代替りしたときに、スタッフは契約更新をした。城戸は無視していたのだが、了承したという形で更新されていると説明した。
「そちらの契約では、年に一度はオーナーと面談すること、という条項が含まれている。・・・まあ、つまりは年に一度ぐらいは顔を合わせようっていうくらいのことだけど、それを無視するとオーナーから違約に対する処分を受けることになってる。おまえのところにも、その契約書は送られているんだが、見てないだろう。」
 確かに契約更新の書類は送られてきた。そんなもの中身なんぞ拝んでいるわけがない。サインだけして送り返してしまった。いくらの契約金であろうが、どんなノルマかも興味がなかった。九鬼がわざわざ、そんな条項を載せたのは城戸のことが心配だったからだ。それなのに、当人は一切無視していたのだから、当然、怒りは買っている。そんな会話の最中に、居間に人が入ってきた。九鬼本人である。腕に美愛をだっこしている。
「とうさん、ハムスターは大きくなるのが早いね。もう、子猫ぐらいになってる。」
 ただいま、と言いながら、城戸と多賀の前に立った。五年で見違えるほどに貫禄のついた九鬼が城戸を見下ろした。それから、あーあー、やっぱりなあ・・・とがっくりと肩を落とした。
「リッキー、俺の契約書を読みもせずに返送しただろう? 五回も契約不履行だ。この違約はどうやって返してくれるの?」
「・・・うん、今、タガーから契約内容を教えてもらったよ、クッキー。・・・別にこれで解雇でもいいんだが・・・おまえはどうしたい? 違約金でも払おうか?」
 城戸がごく普通にビジネスライクなことを口にしたので、九鬼は突然に顔色を変えた。そんなもんじゃないだろうとため息を吐いた。
「バカなこと言わないでくれよ、リッキー。なんで、俺がリッキーを解雇するんだよ。・・・そうじゃないだろう? だいたい、五年も音沙汰なしで何をしてたわけ? 俺が情報網を使って探しても見つからないし、葛に連絡してくるのも他人委せにしてしまうし、・・・どれくらい心配したか、わかってる? みやのことで、またしゃかりきになって働いてることぐらい、分かってたよ。だから、わざわざ契約書を更新したのに、それだって無視してるしさ。リッキーが倒れたら、俺、みやに顔向けできないじゃないか。もっと、自分を大事にしてよ。みやが天国で心配するようなことしないでよ。」
 怒鳴るまではいかなくても、かなりの大声で城戸に向かった。相手ははあ? と不思議そうにしている。要領を得ないという顔に、もう一度、声を出そうとして、だっこしていた子供に両手でパチンと頬を叩かれた。それから、ぽんと飛び降りてソファに上って城戸の首に手を巻き付けた。
「志郎おじさん、りっちゃんはびょーきなの。いじめちゃだめ。・・・りっちゃん、大丈夫だよ。みあが助けてあげるからね。」
作品名:りんみや 陸風2 作家名:篠義