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りんみや 陸風1

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「ああ? おや? きみは、みやが篭に閉じこもったら即効で閉じこもる段取りをしていたんじゃあ、なかったかな? そのために、きみが専属スタッフを配置した話は、じいさまから聞いたぞ。」
 電話くらいはいいけどな、と念を押された。そう、私はユキが弱って起き上がれなくなってしまったら、一緒に屋敷に篭もる算段をしていた。だから、別に、いきなり消えてもなんら問題が起こらないようにスタッフを配置し、そのためのマニュアルを作成している。これから消えると連絡すれば、そこからはマニュアル通りの手配がされる。そんなことはリィーンにはお見通しだったらしく、きっちりと足止めを食わされた。あいかわらず、私の動きは見えているのだ。
「そこまで知られているなら、仕方ありません。電話はかけさせてください。」
「最初っから、素直にそう言え。」
 ニカニカと笑って、りんが手を振る。起き出して、私も後に続く。別の事務室のようなところへ案内されて、そこからオフィスに連絡を入れた。これで、しばらくは行方不明になる。


 城戸はバタバタと医師たちに治療を施されると、コトンと電気が落ちたように眠ってしまった。自覚はないだろうなあ、とりんは苦笑いする。自分が体験したままを城戸は演じてくれているようなものだ。第三者の立場で見ていると、その当時の自分がいかに鈍感になっていたか伺えた。自分の子供が後一年の生命だと宣告されて、しゃかりきになって働いて忘れようとした。食事することも眠ることも放棄して、多額の借金を返済できるほどに働いた。それから、子供の手術に立ち合うことになって屋敷に戻ると、浦上や小椋が自分は病気になっていると口が酸っぱくなるほど説明してくれたのにわからなかったのだ。自分は健康で死にかけているのは子供のほうだとばかり思っていた。それなのに、自分も危うかったのだ。後でさんざんに痛い目に合わされた。ふと、気付くと、その痛い目に合わせてくれた浦上が入ってきた。背後には瑠璃と孫も一緒だ。
「・・・なんだかなあ・・・りんさんがダブルになったら、俺の神経が保たないよ。」
 苦笑して浦上は、向かいの席に座る。瑠璃は少し城戸の様子を確かめてから、やってきた。着替えを持参してくれた。
「一応、あなたの新しいのを持ってきたわよ。それと、美愛もこちらにいるというから、この子のものも。」
「ああ、すまないな、瑠璃さん。別に城戸くんは付き添いはいらないんだが、このねずみが付き添うというからさ。」
 ねずみと呼ばれた孫は、静かに城戸の様子を眺めている。それを瑠璃と浦上も暖かい目で見ている。屋敷で、「りっちゃんの傍に居ないと駄目」と、さんざんに強情を張って無理遣りに連れて来させたらしい。真理子も佐伯夫婦も根負けして送り出したと、瑠璃が説明してくれた。
「初対面なのに、リッキーのことはわかっているみたい・・・だから、美愛は一緒に居てあげないと、りっちゃんがたいへんなのって説明してたわよ。」
 瑠璃にはわかっている。城戸が以前のりんのように、ぽっかりと心に大きな空洞を創ってしまった。それを埋めるには、美愛の存在が必要なこともである。
「うん、今の城戸くんにはなんでもいいから、穴埋めするものが必要だ。美愛なら、適役だろう。あいつも自分の役割をわかっているようだし、しばらく付き添わせておくさ。」
 孫に、みやはメッセージを残したと真理子から聞いている。真理子自身は見ることができない。ただ、美愛が望めば見せてやることができる。そのなかに、おそらく城戸のことが含まれていたのではないかと推測できる。
・・・みあ、もし、りっちゃんがおまえの前に現われてね。りっちゃんが泣いていたら、こう言って抱きついてみろ。「みあが傍に居る」って、何度も何度もそう言えば、きっと、りっちゃんは泣かなくなる。泣かなくなるまで、絶対に離れないでいてあげてね。約束だよ、みあ・・・・・
 ぼんやりと、美愛は城戸の顔を見ている。父親が教えてくれた通りに、りっちゃんはやってきた。それも泣いている。りっちゃんの心はパパで一杯だ。たくさんの思い出のなかのパパは泣いていたり笑っていたり、いろいろだ。眠っているパパは子供みたいに見える。・・・・りっちゃんは、おまえに預ける。俺はもう、りっちゃんと一緒に居られなくなった。みあ、りっちゃんの心が美愛で一杯になったら、りっちゃんはおまえを大切に守ってくれる。そうしたら、りっちゃんはおまえのものだ。でも、もし、りっちゃんの心が他の誰かで一杯になったら、おまえのものじゃなくなる。そうしたら、その人に渡してあげるといい。それまでは、美愛がりっちゃんの傍にいてやってくれ。・・・・
 パパが話すことは難しい。自分にはよくわからないこともある。ただ、ひとつわかっているのは、りっちゃんが泣かなくなるまで傍に居ればいいということだ。無造作に投げ出された手に、彼女は触れる。ふわり、と城戸の心が軽くなって、「ゆき?」と尋ねている。ゆきじゃない、みあなのに・・・ゆきは天国に住んでいるから、もう逢えないんだよ・・・みあだって、逢いたいけど逢えないんだから・・・・
 大きくて暖かい手を両手で掴んだ。パパで一杯のりっちゃんの心がよく見える。大切に大切に、りっちゃんはパパを守っていた。リィーンと同じように深くて暖かいものがある。でも、それはリィーンのように環になっていない。どこかが破れている。
作品名:りんみや 陸風1 作家名:篠義