落ち椿【02】
灯華についてきた使用人は二歳年下の女の子だった。それでももう勤続年数が七年目というベテランの域にいる事を知り驚いた。彼女の場合祖父の代からクロイツェル家に遣えているので息をするのと同じようにクロイツェル家で働くのは当たり前との事だった。そのためアストやリフェリアの話も沢山聞くことができた。特に騎士となる前のアストの話などお宝同然で、根掘り葉掘り聞いてくる灯華にリフェリアから指示でも出ていたのか差しさわりのない事は何でも教えてくれた。そして意外だったのは、リフェリアがかつて騎士だったという事だ。戦に出ていた以上武芸は出来るのだろうと思っていたが、まさかアストと同じように騎士として王都にいた事は誰も教えてくれていなかった。
「はぁーまさか、騎士とは・・・」
「ご存知ありませんでしたか」
「うん全然」
「以前は皇太子妃、じゃなくて今の王妃様付きの騎士をされておいででした」
「・・・そう、なんだ」
王妃ユウィークとリフェリアの関係はオルフェにも詳しく聞くことができなかった。ただ今の皇太子妃とそのお付きの騎士という事を聞いただけで随分気心の知れた仲だったのではないかと思ってしまう。今の王とアストがそうであるように、彼女達も同じような関係を育んでいたのではないかと予想できた。
ふと、ガラガラと音をたてて石畳をすすむ馬車が遠くに見えてきた。この世界の移動は専ら馬車だがここまで音をたてて街道を走る馬車はかなりの大きさをもったものだろうとそちらの方向をみる。いち、に、さん・・・と数えてゆき六頭目の馬を確認したところで馬車は目の前を走り去った。馬の方にばかり目がいっていた灯華とは違い使用人はその車にかかげられていた紋を見ていた。
「トモカ様、申し訳ありませんが邸に戻ってもよろしいでしょうか?」
慌てたように言うので灯華は頷き一緒にクロイツェル邸への帰路へと向かった。
「どうしたの?」
「お客様が、いらっしゃいました」
通り過ぎた馬車は派手な音をたててクロイツェル邸へと向かっていったのは灯華にも分かった。