放課後不思議クラブ・かくれんぼ
「慎也、どこに隠れんの?」
圭一に聞かれ、私は素直に答えた。それが私たちのかくれんぼルールである。さっき言ったみたいに、白骨化しないために、他の隠れる人に、自分の隠れ場所を教えておくのである。これで、ブッキングもある程度防げる。
鬼が降参して、他の人に隠れ場所を聞いたら鬼の負け。帰りの商店で、棒アイスをおごるはめになる。今日はお祭りだから、りんご飴くらいにグレードアップするだろう。黒木については、希代に責任を持って面倒みてもらって。
「家庭科室のミシン台のところかな? でもミナも行きそうだし……そうしたら、あとは社会科準備室かな」
「社準? あそこ先生いるじゃん」
「今日はいないよ、たぶん」
駆け足で階段を上りながら、私たちは大声で会話している。もしかしたら、和馬の方まで聞こえているかも。それはないか。
「圭一は?」
「講堂の演台の裏」
そこは、いつも和馬が隠れる場所だ。講堂では、フットサル部とかの室内競技の部活が曜日ごとにかわるがわる活動していて、今日は確か、卓球部のはずだ。けど、卓球部の顧問の先生は、お祭りの方に行っている。という訳で、今日の講堂は隠れるのには最適。部活動している中で隠れたら、絶対クラスメイトや誰かしらにからかわれて、そのままの勢いで鬼に見つかるのがオチである。実際、和馬はいつもそんな感じだ。ならなんで、そこに隠れるのかと聞くと、隠れている最中の暇な時に、一生懸命部活動をしている人たちの掛け声や、ボールの弾む音を聞いているのが好きなんだそうだ。その気持ちは、わからなくもない。
「おっけー」
「じゃ、後でな」
圭一は、もう一階分、階段を上って行った。講堂は、一番上の五階にある。なんで体育の授業も行う講堂を、校舎の上の方に作ったのだろう。講堂真下は選択授業とかで使う小教室になっていて、タイミングが悪いとドンドンうるさい時がある。
家庭科室は、普段は家庭科クラブが使っている。料理したり、編み物したりしているそうだ。今日は活動日じゃないので、気兼ねなく隠れられる。教室内には誰もいない。
「よし、ミナいない」
ここにいなかったら、あとは、自動販売機のとこにでもいるのかな。先生が手本を見せるのに使う立派なミシン台は、立派な隠れ場所にもなる。ひっくり返して収納されている付属ミシンを起こし、空いた部分にすっぽり私は入った。挟まったとも、収まったともいう。
校内は静かで、壁掛け時計の秒針の音が聞こえてくる。
コチ、コチ、コチ……。
和馬は来る様子はない。そもそも、この階に人はいるのだろうか? 静かすぎる。階段から、十三歩ほど離れた家庭科室に来るまでにも、人影は見なかった。
かくれんぼの醍醐味は、隠れ場所を探すのと、隠れた後のどきどき感だ。いつ、鬼が来るか、はたまた、先生が来るか。圭一は裏をかいて、和馬の隠れ場所に隠れたのかも知れないけど、いつも自分が隠れる 場所って、一番最初に見に行くと思うけどな。もう見つかったのかな、圭一……。
コチ、コチ、コチ……。
ただひたすら、秒針が刻む音に耳を傾ける。それしかやることがない。今日の晩御飯、なんだろう。しめじが食べたいな、しめじ……あれ、えのきだっけ? どっちだっけ。うーん……。
……心地よいリズムの音に誘われ、私は夢の世界へと落ちてしまった。
作品名:放課後不思議クラブ・かくれんぼ 作家名:塩出 快