ファントム・サイバー
ボクは真のファントムとして覚醒めた。
そして、ボクは理想郷を創るために今の世界を敵に回さなくてはならない。
ボクはローズを見定めた。
「ファントム・ローズ、ここでの勝負はお預けにしよう。ボクは覚醒めたばかりだ、少し休養を取りたい」
「そうはさせない。ここで決着をつける!」
ローズは薔薇の鞭を構えた。本当にやる気のようだな。
「ならば相手をしよう」
銃を構えようとしたとき、ボクとローズの間にナギサが割って入った。
「やめてリョウもマナお姉ちゃんも、なんで戦わなきゃいけないの!」
ボクは構わず銃を抜いた。
「それはきっと宿命だ」
「やめて!」
ナギサが叫んだ。
一対一での戦いではローズはボクに牙を剥いた。しかし、今はナギサの悲痛な訴えに、鞭を握った手を地面に下ろしてしまった。
やはりローズは甘い。
ボクはナギサに当たらぬように銃を放った。ナギサの想いはボクを存在させる糧だ。滅ぼすわけにはいかなかった。
ローズも意を決したのか、弾丸を躱しながらボクに襲い掛かって来た。
撓る鞭を舞うように躱しながら、ボクはローズに話しかける。
「もう戦いは止めにしないか、こんな戦いなんてくだらない」
「私が戦うのを止めたらお前は世界を滅ぼすだろう!」
「何度言ったら理解してもらえるんだ。新しく創り直すんだよ」
「それに何の意味がある?」
「そうしたら君の愛した人も、ドリームワールドの幻影ではなく、君と融合して永遠となる」
薔薇の香が強くなったようにボクは感じた。
鞭の動きが早くなった。
足捌きが追いつかずボクの腕を鞭が切り裂いた。まったく痛みは感じない。
ボクはローズと戦いならメアたちに目を向けた。
メアはナイを捕まえようとしているようだ。
「お姉さま、わたしと行きましょう」
「イーヤーだ。ウチとアンタはぜんぜん性格が合わないから一緒にいたくないの!」
「なら、再び一つになるしかありませんわね」
「今度一つになったら、ウチが主権を握ってやるんだから!」
「それは無理ですわよ。またわたしが主権を握らせてもらいますわ」
「望むところだ!」
メアとナイが互いの手を握り合った。
結合した手から徐々に溶け合うように融合がはじまる。姉妹が真の姿を現そうとしていた。
闇と光が渦を巻いて姉妹を呑み込み、突風が当たりに吹き荒んだ。
戦っていたボクとローズも手を休めて風の煽りを受けた。
「ボクの予想はメアの勝ちだね」
より強い風が爆発したように吹き、この場にいた全員の躰を吹き飛ばした。
ボクはローブを風に靡かせながら床に手を付いて堪えた。
物凄い妖気を感じる。
ドリームワールドが生み出した幻影。
風が吹き止み、闇と光の渦から黒いナイトドレスを着た優美な女性が這い出てきた。
夢魔――ナイトメア。
やはりメアが勝ったようだな。
「ナイトメア、別のワールドの扉を開けるか!」
ボクの問いにナイトメアは首を横に振った。
「申し訳ございません。内にいるナイが抵抗していて力が発揮できません。しかし、このワールドの別の場所ならば……」
ボクは急いでナイトメアの元に駆け寄った。
「行かせないぞファントム・メア!」
ローズの鞭がボクの足に巻き付いた。
転倒を誘発されたボクは地面に両手を付いてしまった。
すぐにナイトメアがボクの元へ駆け寄ってくる。
「ファントム・メア様!」
ナイトメアの手に闇が宿り、手刀によってボクの足に巻き付いた鞭が切られた。
立ち上がったボクはナイトメアの胸に抱かれた。
そして、闇の衣に包まれボクはこの場から逃げようとした。
作品名:ファントム・サイバー 作家名:秋月あきら(秋月瑛)