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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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《1》

 僕は目をパッと開けて天井をガン見した。
 こんな寝覚めの良い朝は何年ぶりだったかな?
 もしかしたら人生史上最高の寝覚めかもしれない……かなりウソをついた。
 ここで『ご主人様、朝食を運んでまいりました』とか言って、メイドさんが部屋に入って来たら90点なんだけどなぁ。平凡な寝覚めなんてなんの幸せでもない。ぶっちゃけ、寝てるほうが人生幸せだと思う。
 そして、枕元にあった置き時計を見て、最低の寝覚めに急落下した。
 これは認めてはいけない現実だ。まさか学校に遅刻しそうなんて、ギャグ漫画の王道でもあるまいし、そんな朝はイヤだ。
 そうだ、ここは現実的な解釈で乗り切ろう。この時計は二十分ほど進んでいるんだ。僕が寝ている間に、小人さんが時計の針を進めたに違いない。
 お茶目なイタズラだなぁ、あはは。ってぜんぜん現実的じゃないし!
 バカなこと考えてないで早く着替えよう。
 僕はパジャマの上から制服を着るという裏技を使い、ネクタイを締めながら等身大の鏡に自分の姿を映した。
 さすがにそろそろ髪の毛を切ろうと思う。
 僕の両眼は全部前髪で隠れ、口の辺りまで髪の先が伸びている。
 猫背だし、幸薄そうだし、見るからにネクラっぽい。
 でも僕はネクラなんかじゃない。
 たしかに学校でひと言もしゃべらずに家に帰ってくることがあるけど、それでも僕はネクラなんかじゃない!
 ちょっと面と向かってしゃべるのが苦手なシャイボーイなだけで、ネットの世界では明るい自分が出せている。
 だから僕はネクラなんかじゃないんだ。
 ネットの世界でコミュニケーションが取れてるんだから、まったく問題ないと思う。
 こんなこと考えてないで早く高校にいかなきゃ。
 僕は家をダッシュで飛び出した。
 学校までの距離は近い。徒歩で十分通える距離にある。
 僕は前髪が乱れないように走り、一〇メートルもしないうちに息が切れた。
 疲れてしまった僕の歩く速度は普段の50パーセントOFF。これじゃ走った意味がない。最初から走らなきゃよかった、損した。
 ……んっ?
 前方五メートル先に黒いナマモノ発見!
 うはっ、黒猫に目の前を横切られた。縁起が悪い。
 僕は見て見ぬフリをして曲がり角を曲がろうとした瞬間だった。
 衝突音が聴こえて間もなく、
「キャーッ!!」
 女の子の甲高い叫び声が聴こえた。
 放物線を描いて巨大な何かが、僕の足元へ鈍い音を立てて落ちた。
 ナース服を着た美少女が、頭から血を流してアスファルトに横たわっていた。
 フロントガラスが割れた車が目に入った。
 身動き一つしないナース服の美少女。
 頭から流れた血が僕の靴を浸す。
 ……ありえない!
 僕の人生は順風満帆じゃないことは認めるけど、目の前でこんな悲劇に遭うなんて認めない。
 そもそもナースがなんで町中にいるんだ?
 しかも美少女。
 そうだ、これは夢だ。
 夢以外にこんな展開あるわけないじゃないか!
「僕は認めないぞ!」
 僕は腹の底から叫んだ。

 ――そして目が覚めた。
 頭を乗せていた腕が痺れている。
 どうやらパソコンの前で寝落ちしてたらしい。毎日こんな感じだ。
 学校から帰って来てまずやることは、パソコンの電源を入れること。それからずっとパソコンの前で過す。休みの日なんかは、ずっと家に引きこもってパソコンをやっている。
 学校に行かなくなったら、絶対ヒッキーになると思う。ついでに今流行のニートにもなりそうだ。
 そんな未来予想図を展開しながらも、僕はパソコンなしじゃ生きていけない。
 今ここでこうしている僕は本当の僕じゃない。ネット世界のほうが生き生きしてて、あれが本来の僕だと思う。だからパソコンがなくなってしまったら、本当の僕も消えてしまうんだ。
 昨日も遅くまでパソコンをやっていた……せいで遅刻しそうだし!
 僕はパソコンの時計を見て焦った。
 すぐにパジャマの上から制服を着替え、僕は家を飛び出した。
 家を飛び出した時点で息が切れ、ゼーハーしながら歩いていると、黒いナマモノ発見!
 うはっ、黒猫に目の前を横切られた……デジャブ?
 悪い予感がした瞬間だった。
 衝突音とガラスの割れる音、そして――。
「ぐぎゃ!」
 カエルを握りつぶしたような短い叫び声が聴こえた。
 僕の足元に落ちてきた中肉中背の男。
 僕は血の気が引いて顔面蒼白になった。
 首を一八〇度回転させた男は嘔吐をして、頭からは血を流していた。ひと目で死んでいるとわかった。
 男を撥ねた車がバックして逃げて行く。
 僕も怖くなって逃げた。
 ……ありえない!
 まさか正夢になるなんて、信じてたまるか。これはきっと夢の続きなんだ。
 僕は自宅に逃げ込み、自分の部屋に入るとドアのカギを閉めて、ベッドの上に乗って布団を被った。
 冷や汗をかいて異常に寒い。
 急に部屋がノックされた。僕はビビって心臓が止まるかと思った。
「どうしたの?」
 ドアの向こうから母親の声が聴こえた。
「体調悪いから学校休む」
 そう言うと、母親の足音が遠ざかっていった。
 それなりに心配されているみたいだけど、一線を越えてまで僕に関わろうとしない母親。
 ……母親の対応がリアルだ。
 これって夢なのだろうか?
 なにひとつリアルと違うところがない。非日常な現象は男が僕の前で死んだことくらいだ。
 やっぱり夢だ。ここで認めてしまったら負けになる。何に負けなのかわからないけど、とにかく負けになる。
 全身に鳥肌が立った。何か音がした。耳を澄ますと、その声がよく聞こえた。
 猫の鳴き声。
 寒い、背筋が寒い。寒くて猫背になる。
 潜った布団の隙間から、僕はベランダの方を見た。
 猫だ、黒猫が窓の外にいる。
 ホラーか?
 ホラーなのか?
 いや、ホラーの展開にするもんか、絶対コメディに持っていってやる。
 あれは黒猫と見せかけて宇宙刑事(デカ)なんだ。どこかの星から凶悪な怪人を追って、地球の平凡な住宅街に来たんだ。
「ここを開けてくださらない?」
 ……幻聴?
 なんか少女の声が聴こえた。部屋に少女の霊でもいるのか、今までパソコンをやっていてそんな気配感じたことないぞ。
「開けて頂戴」
 少女の声と窓を叩く音。
 黒猫が前脚で窓を叩いていた。
 ……やっぱり宇宙刑事だ!
 違う、これは夢だ。
 確信した。猫が人語をしゃべる=夢だ。
 よかった、安心した。車に轢かれた男も特殊メイクか何かで、血はケチャップだったに違いない。この際、豆板醤でもいいや。
 僕は呼吸を整えながら、布団を被ったままベランダの前に立ち、窓をゆっくりと開けた。
 黒猫は小さくお辞儀をすると、しなやかに僕の部屋に入って来た。家宅捜索の令状は?
 僕は布団を被ったまま黒猫と向き合った。
「どこのどなたですか?」
 猫に向かって尋ねるような質問じゃないけど、相手は宇宙刑事だ。
「わたしの名前はメアよ。貴方にお頼みしたいことがあって参りましたの」
 宇宙刑事のスカウトか?
 でも、そういうことに巻き込まれるのはごめんだ。
「断ります。僕は何もしたくない。危険なことに巻き込まれるのは嫌です」
 例え夢だとしても、嫌なものは嫌だ。