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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ファントム・サイバー

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 オレ様はガキの腕を掴んで無理やり立たせた。まったく力が入んねえみたいで、オレ様が手を離したらすぐに倒れそうだ。
「オレ様はここから逃がしてやるって言っんだ。大人しくしたらどうだ?」
「ここから逃げても捕まったままじゃ意味ないじゃん。ウチにとっては何も変わらない」
「オレ様には意味があることだぜ、いいから来やがれ」
 こいつを連れ出せば大狼に一泡噴かせられる。ついでにこいつの持ってる情報とやらも手に入れてやる。
 力の入らないガキを引っ張るのは簡単だった。抵抗されでもしたら、このアジトから出る前にメンドクサイことになるからな。
 まずはこのアジトから逃げ出して落ち着けるとこに行こう。
 オレ様は緊急用の脱出通路に急いだ。
 秘密の扉を開けると、そこには逃亡用の乗り物が置いてある。
 バイクに車に、早い話が駐車場だな。
 オレ様がどれで逃げるか選んでいると、柱の影から誰かが出てきやがった。
「どこに行くつもりだザキマ?」
 大狼の野郎だった。オレ様の計画に勘付いて先回りしてやがったのか。
「オイオイ、こんなところ油を売ってていいのかよ。謎の侵入者はどうなった?」
「アジトは他にもある、ここを壊滅されても私は一向に構わんよ。それよりも、私にはナイが重要なのだ」
「このガキがそんなに大事かよ?」
「大事だ。それ以上のことを裏切り者の貴様に教えてやる道理はない」
「教えてくれなくてもいいぜ。あとでガキに吐かせるまでだ」
 オレ様はガキを床に寝かせた。弱って逃げる気配もないが釘を刺しておくか。
「逃げてもムダだぜ、このスイッチの電波はどこにでも届く。そこで大人しく休んでな」
 細かく言うとケータイの電波が届くくらいの場所だけどよ、そんなこと教えてやる必用はねえ。
 大狼は指を鳴らして戦いの準備をしてやがる。オレ様もサングラスを掛けて、隠しフォルダから出したアイアンクローを両手に嵌めた。
「今日は負ける気がしねえ。どっからでも掛って来いよ、大狼!」
「貴様は私に指一本触れることも適わんよ」
「言ってくれるじゃねえか!」
 てめぇの時代はここで終わるんだよ!
 このクローで引き裂いてやるぜ。
 大狼がプログラムを使う。
「ファイアウォール!」
 今日こそのこの壁を乗り越えてやる。
 オレ様はファイアウォールにステッカーを貼り付けて飛び退いた。
 すぐにステッカーは爆発した。
 煙の中で大狼の声がした。
「確率的に不可能なことをなぜする?」
「……なっ!」
 大狼はオレ様の背後にいた。
「クラッシュパンチ!」
 奴のパンチがオレ様の背中にヒットして爆発した。
 背中を焼かれ吹っ飛ぶオレ様。ったくカッコ悪いぜ。
 振り返ると同時にオレ様はエレキを出した。
 すぐ目の前にいる大狼に電磁パルスを食らわせやるぜ。
 オレ様は弦がはち切れるくらいエレキを掻き鳴らしてやった。
 大狼の動きが一瞬グラついた。けど、それも少しの間だ。奴はそのままオレ様に襲い掛かって来やがった。
「その程度の小細工、私に通用すると思ったか」
 チッ、やっぱアースで電流を逃がしやがったな。けどよ、動きが少し止まったところを見ると効果はゼロじゃねえらしいな。
 大狼の電気コードの鞭がオレ様に襲い掛かってくる。オレ様はそれを素早くかわし、エレキを掻き鳴らした。今度は長い演奏だ。
「鞭の動きが鈍ってるぜ大狼」
「電磁パルスを使えるのは貴様だけではないぞ」
 なんだと?
 グォォォォン!!
 大きな口を開けて大狼が咆哮をあげた。まるで巨獣みたいな声だぜ。
 声は電波の並になって俺様に襲い掛かった。
 オレ様の耐電が保つか……。
「クッ!」
 電気を帯びたオレ様の身体から小さな火花が出た。身体の表面のプログラムが少しやれれたみたいだ。ったく、大狼があんなプログラムを使えるなんてはじめて知ったぜ。
 こんな戦い方じゃいつまで経っても大狼を倒せねえ。物理攻撃でクラッシュさせるしかねえな。
 オレ様はクローを構えて大狼に飛び掛ろうとした。だが、オレ様の目は別のところに奪われた。
「あのガキ、逃げる気だ!」
 その言葉に大狼の目もガキに向けられた。
 よろめきながら逃げようとするガキに向かって大狼が駆け寄る。
 オレ様は近くにあった車に乗り込んでエンジンを掛けた。
 こうなったら大狼との勝負はお預けだ。
 アクセルを叩き踏み、ハンドルを切ってガキに向かって車を走らせた。
 すぐ近くにいる大狼を轢くつもりで突っ込んだ。
「死ねーッ大狼!」
 間一髪のとこで奴は車をかわして地面を転がった。
 オレ様はガキの真横に車を走らせて、ハンドルから手を放してガキの腕を引っ張り、そのまま身体を抱きかかえて助手席に放り投げた。
「きゃっ!」
 ガキが顔を歪めながら短く悲鳴をあげた。
 このまま逃げるしかないな。
 オレ様がドアを閉めようとしたとき、追って来た大狼の手が運転席まで伸びてきやがった。オレ様は構わずドアを閉めてやった。
 大狼の口元に明らかな苦痛が浮かんでやがる。だが、奴はオレ様の腕を掴んで放さない。車は奴の身体を引きずりながら進んだ。そのまま駐車場を出て道路に出た。
「ザキマ、許さんぞ!」
「このガキはもらっていくぜ」
 運転席のドアを一度開けて、大狼君の身体に蹴りを入れてやった。だが、それでもしぶとくオレ様の腕を掴んで放さねえ。
 今度はドアを強く締めて大狼の腕を挟んでやった。それでも大狼は引かねえ。それどころか、手はオレ様の首を絞めてきやがった。
「オレ様の首から手を……放しやがれ!」
 オレ様は車のハンドル切って、ガードレールに大狼をぶつけた。何度も、何度も、何度もぶつけてやった。
 ドアに挿まれた大狼の肩から火花が出た。外装の下から電気コードが見えてやがるぜ。こいつ身体の中までサイバーなのかよ、ぶっ飛んでやがるな。
 あと少しで大狼の肩が引き千切れそうだな。ならこれで最後だ。
「あばよ大狼!」
 オレ様は再びドアを開けてすぐに力強く閉めた。挿まれた大狼の肩が断絶され、奴は道路の上を転がって車の遥か後方だ。
 一対一の勝負には負けたが、ガキはもらってくぜ!

《3》

 車はグングン進んでアジトから離れていった。いくら距離を稼いでも大狼のことだ。すぐにネットワークを使ってオレ様たちの居場所を突き止めるだろうよ。
「ん…うんん……」
 今まで気絶してやがったガキが目覚めたらしいな。
「やっと目が覚めたかクソガキ」
「……クソガキ……ウチはクソガキじゃない。マジムカツク」
「約束どおりちゃんとあの場所から連れ出してやったぜ」
「アンタに捕まってるんじゃ意味ないじゃん。あそこにいた方がまだマシだったもん」
「かわいくねえガキだ」
 ったく大狼の野郎、こんなガキがからどんな情報を手に入れようとしてたんだ?
 見た目に騙されるな。これは常識だ。
 ネカマ、ネナベなんていうのは山ほどいる。このガキの正体はなんだ?
「オイ、ちょっとこっち向け」
「なに?」
 ガキがこっちを向いた瞬間、オレ様はガキのおでこにステッカーを貼り付けた。
「イタッ」
「別に痛くないだろ」
「痛いっていうのは条件反射だもん。いちいちつっこまないでよ」