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うそだったんです。

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沈黙に耐えきれなくなって、俺はふいに口を開いた。弾かれるように顔を上げた堀内の顔を、じっと見る。それを見て思わず表情が綻ぶのがわかった。なんとなく安心したような、そんな顔をしている。

「…じゃあ黙っときゃよかったじゃん」
「……傷つけるってわかってました。だけど、さいしょに嘘をついたのはほんとうで」

まあお前真面目だからな。なんとなくわかる気がする。縋りつくような眼でそういった堀内を見て、俺はふっと咽喉の熱が下りるのを感じた。…ところで堀内君、あの買い物袋はどこに置いてきたんだ?なんて聞くのは野暮だと思ったから、俺はひとつ息を吐く。

「やさしーよな、堀内」

そういうところが、好きだ。口には出さないで、俺はゆっくりと手を伸ばして堀内の顔に触れた。まだ走っていたときの熱を持った頬を、確かめるように撫でる。こうして触れるのは初めてだ。一年もたつのに。

「…ばかだけど」

付け加えて、すぐに頬から指を離す。なんていうかどうしようもなく愛しい馬鹿だ、と思いながら、大きく息を吐いた。…たぶんもとはといえば話を全部聞かないで逃げた俺が悪い。自分の非を認めるのはいやだから口には出さなかったけど。俺はずるい大人だ。

「…俺は、ずっとお前のこと好きだよ」

好きだといったのが嘘だ、といわれても、この気持ちだけは変わらなかった。でもなんかむずがゆいから語尾に(笑)が付いてしまったのはしょうがないと思ってほしい。べつに悪気があるわけじゃない。なんかくすぐったいだけ。
けっきょく、それでいいんじゃないか、とも思う。俺たちらしくて。堀内のもやもやもすっきりしたことだし一件落着じゃないのかな、と思って俺が立ち上がろうとしたら、思ったより肩に乗った堀内の手の力が強かったせいで出来なかった。え、と思って堀内を見上げると、堀内はものすごくせつない顔をして俺のほおを掌で包む。熱くてびっくりした。

「…秋良先輩」

ごめんなさい、と堀内がいう。いやいや(笑)は照れくさいからであってほんとうにそう思ってるって、と心のなかで思いながら堀内の顔を窺えば、そっとやさしく指の腹で俺の輪郭を撫でていた堀内が目を細めた。せつなそうな顔をしている。それを見てついに俺の罪悪感がピークに達した。さっきから一方的に笑ってて凄く申し訳なくなる。

「いや、あの、だな。…つまりアレだろ?お前は俺に嘘付いてたってのを隠すのが辛くなってホントのこと言っちゃったんだろ?それで俺が逃げたから必死になってさ。…それがその、可愛くてだな」

お前すげー俺のこと好きってことじゃん。俺よりずっと落ち着いている堀内が取り乱したり大声を出したりして俺を引き止めたがったのがすごい、なんていうかかわいい。主張するとみるみるうちに堀内が間抜け面をした。アホっぽい。どうやら俺の言葉が予想外だったらしかった。

「…寒い。帰ろう」
「……せんぱい」

ぎゅう、と肩に乗っていた手が背中に滑って、堀内が俺を抱きしめた。こんなに接触するのは初めてなので思わずびっくりして固まっていたら、耳の傍で堀内が熱っぽく囁く。背筋がぞくっとした。

「…ちゃんと伝えられたら、それで先輩が許してくれたら、こうやって触れようって。…思ってたんです」

それをきいて、最初あっけにとられた俺は今度こそ声上げて笑っていた。なにそれお前ちょう可愛い。笑いたくもなる。耐えかねて背中をタップするとその抱擁がほどけるけれど、間近な堀内の顔はものすごく微妙だった。堀内のまえで俺は基本空気を読まない。生ぬるい視線にもめげずに笑っていたら、諦めたように堀内もちょっと笑う。情けない顔だ。

「別に許したつもりはないからな!」

これはもしかしたらいい揶揄いのネタを手に入れたことになるんじゃないか、とさっきまで自分がどれだけ情けない思考をしていたかも放り投げて俺はそんなことを言った。堀内がすごく困った顔になったのを見てもう一度笑ってしまってから、堀内の頭に腕を回してぐいっと引き寄せる。でこが音を立ててぶつかった。

「ただ、今後の堀内君に期待ってことで」

笑う。するとちょっと目を見開いた堀内が、すごいきれいに、嬉しそうに微笑んだ。なんだか先輩には敵う気がしません、と至極当たり前なことを言いながら。

「なあ、買ったヤツどこ置いてきたの」
「あの電灯のとこです」
「…まだあるといいな」

ベンチから立ち上がって、俺は俺んちのほうへと歩き出した。人通りはほとんどないし暗いし寒いけど、気持ちはとても晴れやかでしあわせだ。ぴたりととなりに寄りそう右肩の温度が俺をいやおうなしに浮かれさせる。ふふ、と喉の奥で笑ったら、堀内が息を詰める気配がした。

「…先輩」
「ん?」
「手、つないでいいですか」

…なんてことをいうんだ、お前は。普段とギャップがありすぎて噴き出しそうになったのをギリギリで堪え、それでも耐えきれずにちょっと笑いながら、俺は堀内のほうをちらっと見る。顔が真っ赤だった。ついに俺が噴き出したのを許してくれるあたり、堀内はやさしい(笑)。一年間まるでふつうに友達みたいに過ごしていたのはどうやら、それだけでしあわせだった俺とは違って堀内にとってしたら申し訳なさと気まずさ、おまけに罪悪感と自制心のたまものだったらしい。中学生のガキかよ、といいながら手の甲でつんつんと堀内の指先をつっつくと、躊躇いながらその長い指が伸びてくる。

するっとその指先から逃れるように手を遠ざけて堀内の顔の前でそれを振った。面喰った顔をした堀内の顔が、どうやら照れ笑いをしている俺に気付いてやさしく笑みに崩れる。それであいつが掌を掴んでそれごと往来のまんなかで俺を抱き寄せ、ひどく優しい声で、好きです、といったから、俺はその背中に腕を回して笑ってやった。




作品名:うそだったんです。 作家名:シキ