剣道部と風に揺れる相思花
=恵比寿様SIDE=
やっぱり瑠璃に敵う訳が無い。1年生の話はやっぱり練習試合をしているときでも耳に入る。
やれ、蝦夷だ。恵比寿だ。普通の稽古中だったら迷い無くぶん殴りに行っているところ。
他の2年生は姓で呼ばれてるのに、私だけ”絵美先輩”。
おまけに変なあだ名を山神が一年に教える。思いだすだけでムカつく。
なんとか抑えて集中する。でも どうせなら、2本取られて負けるよりも1本で負ける方がマシ。
もうこれ以上取られたくない!
「アッあ~~~!」
これでも私の精一杯の気合。私のは、変な気合らしい。
瑠璃に声だけでも、声くらいは勝ちたい。
「ヤぁぁあーー!」
今の瑠璃の声はとてもよく響いた。やはり敵わない。
一足一刀の間合いよりは遠い。
今ここで打ったとしても届かない。一歩前へ進み竹刀を大きく振り上げ
「コテ!」
当たらない。試合時間はもうあまり無い,だめだ。
その時、一瞬気が抜けた。その一瞬だった。
瑠璃は大きく踏み込み、私の竹刀を払い、私の空いた面に打ち込んだ。
「メーーンッ!!」
赤い審判旗が上がる。主審の西篠と副審の山神、凛ちゃん全員の審判旗が。
ほぼ無心で竹刀を納め、蹲踞をし礼をする。
「ハァーーーー。」
長いため息だった。
「ぷっ!」
1年が吹き出してる。
「恵比寿様ぁー。」
まだやってんのか。まったく、イラついてきた。
「オイッ!1年男子集合。」
山神が声をかけ、男子が整列。いきなり何するんだろ?
怒ってくれるのかな・・・・・・そんなはずないか。
近くに居た清尾ちゃんに聞いてみる。
「何すんの?あいつら。」
真面目に聞いたつもりだったが、なぜか私の顔見た瞬間に爆笑しだした。すると
「番号!」
山神が1年に指示する。整列した1年の男子―つまり6人は山神の方から大きな声で番号を言い出した。嫌な予感がする。
「いちっ!」
「にぃっ!」
「さんっ!」
「しぃっ!」
「ごっ!」
そして最後の小林。顔がにやけていてキモい。
「ロブッ」
『スタァーーーー』
スターだけは山神も含めた七人で。もう我慢できない。
「ロブスターじゃねぇーー!」
あいつらをとっ捕まえに走る。
秋風が気持ち良い。でもそんなことより、今は。
「山神ぃ!!」
怒るのが先決っ!
「先輩来ましたぁ!」
御崎が男子更衣室から大声を上げる。私は他の女子のみんなとは違って、
「山神っ。」
男子更衣室にだって躊躇い無く入れる!
「うわっ!逃げろ!」
換気用のまどから外に出てくいく。・・・もうっ!卑怯だ!
全員出ていってしまった所で窓に鍵を閉め、
ドアのところに待ち伏せをする。ここで待ってれば絶対来る!ここ以外に入れるような場所は・・・
あった。清尾ちゃんが腰掛けている開け放された窓。
でも、そこまでは頭働かないだろ。
視線を目の前のドアに移す。男子が来る気配は無い。近くのベンチに腰をかける。
次の試合は誰だろう。確か男子で、両方とも1年だった気がする。
考え込んで言う間に眠くなってきた。
寝よう。もうなんか嫌になってきた。
ベンチの後ろから入る陽は暖かかった。スポーツドリンクの氷がコップの中でカランと音を立てた。
作品名:剣道部と風に揺れる相思花 作家名:成瀬 桜