ながら作業
「明日、合コンに誘われてるの。私の知らない女の子も二人来るんだって」
「へえ、そう」鼻息たくましく、恵美の口がへの字に曲がる。
「六人との新しい出会い。楽しみ」
「大きな、グループになるね。六対六なんて。顔と名前、覚える前に酔ったら、終わりだ――あっ」
Aボタンの連打をしていた手が止まった。叫び声とともに電源を切った恵美の顔は、イライラに占拠されていた。クリア失敗。このイライラ感は身体に悪い。
「ロク、ロクじゃないよ。ヨン、ヨン。誘ってくれた同僚以外は知らない人だからね」
個分け袋の山をワシャッと掴み椅子から立ち上がった翠は、まっすぐゴミ箱に向かう。あれだけの物をこの短時間に平らげる底力はすばらしい。
「だから六人との新しい出会い、ね。空を飛ばないほうが近くで見れていいか――って、なんで六人?」
「一八歳以上、四〇歳以下ぐらいなら、全人類対象だよ。忘れたの?」
自分のマグカップを持ち、恵美のコーヒーがまだ残っている事を確かめて、翠はキッチンに行った。洗い物をしながら、何の曲かはわからないが楽しそうに鼻歌を歌っている。
ああ、そうか。小さく呟いた恵美は、これこそあたしにとってのファンタジーだ、と力強く頷いた。