夢の中かどこかで
―ずっと・・見てたんだ。初めて見たときから。おまけに、夢で―・・。
意志の強そうな黒の目。
しっかりしたあご。
―「まって・・!!夢で、どうしたの!?」
「ジリリリリリリリリリリリ!!」
「う~ん。うるさいなぁ・・」
白いカーテンの隙間から、光が差し込んできた。目覚まし時計をたたいて止め、あたしは重いまぶたを開けた。
「・・気持ちのいい朝。」
ぼんやりしてはいるけれど、ものすごく今日はいい気分だった。なんだかいいことが起こりそうな、そんな感じ。
朝ごはんを食べて制服を着て、あたしは学校にむかった。
「ぐもーに!香澄!」
「お、ぐもーに!」
教室に入ると、親友の麗華が朝からニコニコしていた。なにがあったんだろう?でも、聞くのは面倒くさくて何も言わなかった。そしたら案の定、麗華のほうから切り出してきた。
「今日ね、転校生がくるんやて!」
「て・・転校生!?」
素っ頓狂な声が出る。素直な反応だなぁと思いつつ、麗華と転校生に対しての妄想を膨らませていた。
「男がいいなぁ~。」
「あたしは女がいいけどなぁ」
GLとかじゃないけど。ただ単に男より女のほうがなじみやすいってだけの話。
「ほら~せきつけ!」
「は~い」
まだ自称「アラテゥェーン」といっていて、噂では三十路だと言われている木城まどか先生は、朝から上機嫌だった。やっぱり、これも転校生の影響なんだろうか。
「転校生を、紹介する」
誰も何も言わなかったけれど、内心ガッツポーズをしているんだろう。あたしも、ガッツポーズをしていた。いつもうるさい学級が、今日は怖すぎるくらい静かだった。
「では、入って」
重い白色のドアがすっと開く。
「出嶋準くん!みんな、仲良くしてね!」
先生が、自分のことのように誇らしく言った。普段は突っ込みを入れるけれど、今日は誰一人として動かず、そこにたたずんでいる転校生を見つめた。
すらりと長い手足。
整った顔。
下を向いていて前髪で隠れていたけれど、それだけで出嶋準の顔立ちのよさを感じた。
・・かっこいい・・!
素直に、そう思った。周りの女子も同じことを感じていたようで、頬を高潮させていた。
「彼女いる?」
「好みのタイプは?」
転入したばかりの出嶋準に、みんな勝手なことをいっている。
「うるせぇ」
小さい声だったけれど、あたしにははっきりきこえた。
「俺の、席どこ?」
「え?」
「俺の席はどこだって、聞いてるんだよ」
けして、荒々しい声なんかじゃなかった。でも、よく通る声で、耳に響いて、それでもしつこさを感じさせない、不思議な声だった。だから、浮かれていた教室の雰囲気を一瞬で引き締めた。
「あ・・窓から二番目の、前から二番目・・」
「あそ」
あっけに取られる先生とあたし達をよそに、さっさと歩いて席に着いた。
やなやつ。はっきり言ってそんな印象しか残らなかった。入ってきたときはかっこいいと思ったのに、いざ口を開くと、嫌なやつ。あー腹立つ!一度、関わったら・・殺されそう。そこまで思った。
屋上に続く長い階段を、あたしはリズムよく上がった。あたしは屋上が、とても好きだ。今日は特に嫌な転校生に会ったから、特に屋上に行きたくてたまらなかった。
屋上のドアを開けると、爽やかな風があたしの体を素通りした。歩いて手すりまで行き、景色を覗いてみる。グラウンドでは、サッカーをやっている。購買部の委員長が、せかせかと商品を持って走っている。
「やっぱり・・屋上はいいなぁ・・」
変わり行く人と空を見つめて呟いた。とてものどかで、時間を忘れてしまいそうだった。
「ふーん。ここが屋上か」
よく通る声、耳に響いてくる・・・
「にぎゃぁぁぁ!!」
気付くと、目の前には今一番会いたくない、準の姿があった。ぺたんと尻餅をついたあたしを、上から見上げている。逆光で、よけい怖く見えた。
「?どうしたの・・お前」
「いいぃぃぃやぁぁ・・だってぇぇぇ・・」
いると、思わなかった。
「腰・・抜けたぁ・・」
「あ、すまん」
そう言って、あたしのことをヒョイとおこした。
とたんに風が吹き、長い前髪が持ち上がった。
意志の強そうな黒い目。
しっかりしたあご。
・・あれ?
「・・ごめん。驚かせたりして。」
準はすまなそうな顔をした。
「いや・・大丈夫。」
「じゃあな。」
「あ・・有り難う」
準はひらっと手を振ると、屋上を降りていった。
今のはなんだったんだろう。初めて見た、準の瞳。顔の形。今日始めてあった。それなのに・・何かとダブった。なんていうか、そこかで見たような―懐かしいような感じがした。初対面なのに。どうして・・?
「転校した幼馴染、じゃ、ないよな・・」
いろいろと頭に挙げられるものがある。でも、あたしの周りで転校した人はいないし、何せあたしには幼馴染なんていない。なのに、なんで・・。
「概視感、ってやつか?」
まぁ、よくそういうのもあるし。というわけで、あまり気にしないことにした。
「・・あ、香澄!どこいってたのよ?」
「いつもどーり、屋上」
「はぁ・・そう。本当にあんたって屋上好きよね?」
「まぁね」
麗華と話すことしばしば。急に、ニコニコしていた麗華の表情が固まった。
「ん?麗華・・?」
「あんた・・うし・・うし・・」
「牛?失敬な。」
「う・・後ろ!」
「?」
麗華の言葉どうり後ろを振り向くと―
「お、あんた。ちょっと質問があるんだけど」
さっき会ったばっかりの、準がめんどくさそうに立っていた。
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!?な・・!??」
派手な音を立てていすから転げ落ちる。さっきの尻餅の衝撃と相俟って、かなり腰と腰の下部が痛かったけれど、そういうのが頭から転げ落ちていた。
「悪い。ちょっと・・面かせや」
―殺される―?
「いやぁぁぁぁぁぁ!ごめんなさいぃぃぃ!!」
「え?ちょ?俺何か―」
「いやぁぁ!こないでぇ!」
真っ直ぐに走り出したあたしは、目の前にあった机の存在に気が付かなかった。
俺・・実はこの学校に来る前に―不思議な夢を見て―
夢?
それで―ここに来た時に・・また、話すな。
―まって!何で、またこんな夢・・?
その黒い瞳・・もしかして・・
まってよ!あたし・・あなたのこと・・!!
すずらんの香りがする。これは―保健室の布団を洗っているレノアの匂いか―・・?
「・・って?」
ぱちりと目を開ける。白い壁。広い空間。かすかに鼻を突くオキシドールのにおい。そうか、ここは―
「理科室、か」
「馬鹿かお前」
声のしたほうの主を振り向く。すると、頭の上から氷の入った袋が落ちてきた。
「ちべたぁ!」
「すまんすまん」
目の前に落ちた袋が取り除かれる。黒い瞳―
「準!」
「は?」
しもたー!!思いっきり呼び捨てにしてしまった!!これはもう・・これされるのを覚悟しないと・・!!
「・・って、なんでここにいるの?」
「お前さっき、教室で・・」
そういわれて、ふと思い出してみる。
「いやぁぁ!こないでぇ!」
意志の強そうな黒の目。
しっかりしたあご。
―「まって・・!!夢で、どうしたの!?」
「ジリリリリリリリリリリリ!!」
「う~ん。うるさいなぁ・・」
白いカーテンの隙間から、光が差し込んできた。目覚まし時計をたたいて止め、あたしは重いまぶたを開けた。
「・・気持ちのいい朝。」
ぼんやりしてはいるけれど、ものすごく今日はいい気分だった。なんだかいいことが起こりそうな、そんな感じ。
朝ごはんを食べて制服を着て、あたしは学校にむかった。
「ぐもーに!香澄!」
「お、ぐもーに!」
教室に入ると、親友の麗華が朝からニコニコしていた。なにがあったんだろう?でも、聞くのは面倒くさくて何も言わなかった。そしたら案の定、麗華のほうから切り出してきた。
「今日ね、転校生がくるんやて!」
「て・・転校生!?」
素っ頓狂な声が出る。素直な反応だなぁと思いつつ、麗華と転校生に対しての妄想を膨らませていた。
「男がいいなぁ~。」
「あたしは女がいいけどなぁ」
GLとかじゃないけど。ただ単に男より女のほうがなじみやすいってだけの話。
「ほら~せきつけ!」
「は~い」
まだ自称「アラテゥェーン」といっていて、噂では三十路だと言われている木城まどか先生は、朝から上機嫌だった。やっぱり、これも転校生の影響なんだろうか。
「転校生を、紹介する」
誰も何も言わなかったけれど、内心ガッツポーズをしているんだろう。あたしも、ガッツポーズをしていた。いつもうるさい学級が、今日は怖すぎるくらい静かだった。
「では、入って」
重い白色のドアがすっと開く。
「出嶋準くん!みんな、仲良くしてね!」
先生が、自分のことのように誇らしく言った。普段は突っ込みを入れるけれど、今日は誰一人として動かず、そこにたたずんでいる転校生を見つめた。
すらりと長い手足。
整った顔。
下を向いていて前髪で隠れていたけれど、それだけで出嶋準の顔立ちのよさを感じた。
・・かっこいい・・!
素直に、そう思った。周りの女子も同じことを感じていたようで、頬を高潮させていた。
「彼女いる?」
「好みのタイプは?」
転入したばかりの出嶋準に、みんな勝手なことをいっている。
「うるせぇ」
小さい声だったけれど、あたしにははっきりきこえた。
「俺の、席どこ?」
「え?」
「俺の席はどこだって、聞いてるんだよ」
けして、荒々しい声なんかじゃなかった。でも、よく通る声で、耳に響いて、それでもしつこさを感じさせない、不思議な声だった。だから、浮かれていた教室の雰囲気を一瞬で引き締めた。
「あ・・窓から二番目の、前から二番目・・」
「あそ」
あっけに取られる先生とあたし達をよそに、さっさと歩いて席に着いた。
やなやつ。はっきり言ってそんな印象しか残らなかった。入ってきたときはかっこいいと思ったのに、いざ口を開くと、嫌なやつ。あー腹立つ!一度、関わったら・・殺されそう。そこまで思った。
屋上に続く長い階段を、あたしはリズムよく上がった。あたしは屋上が、とても好きだ。今日は特に嫌な転校生に会ったから、特に屋上に行きたくてたまらなかった。
屋上のドアを開けると、爽やかな風があたしの体を素通りした。歩いて手すりまで行き、景色を覗いてみる。グラウンドでは、サッカーをやっている。購買部の委員長が、せかせかと商品を持って走っている。
「やっぱり・・屋上はいいなぁ・・」
変わり行く人と空を見つめて呟いた。とてものどかで、時間を忘れてしまいそうだった。
「ふーん。ここが屋上か」
よく通る声、耳に響いてくる・・・
「にぎゃぁぁぁ!!」
気付くと、目の前には今一番会いたくない、準の姿があった。ぺたんと尻餅をついたあたしを、上から見上げている。逆光で、よけい怖く見えた。
「?どうしたの・・お前」
「いいぃぃぃやぁぁ・・だってぇぇぇ・・」
いると、思わなかった。
「腰・・抜けたぁ・・」
「あ、すまん」
そう言って、あたしのことをヒョイとおこした。
とたんに風が吹き、長い前髪が持ち上がった。
意志の強そうな黒い目。
しっかりしたあご。
・・あれ?
「・・ごめん。驚かせたりして。」
準はすまなそうな顔をした。
「いや・・大丈夫。」
「じゃあな。」
「あ・・有り難う」
準はひらっと手を振ると、屋上を降りていった。
今のはなんだったんだろう。初めて見た、準の瞳。顔の形。今日始めてあった。それなのに・・何かとダブった。なんていうか、そこかで見たような―懐かしいような感じがした。初対面なのに。どうして・・?
「転校した幼馴染、じゃ、ないよな・・」
いろいろと頭に挙げられるものがある。でも、あたしの周りで転校した人はいないし、何せあたしには幼馴染なんていない。なのに、なんで・・。
「概視感、ってやつか?」
まぁ、よくそういうのもあるし。というわけで、あまり気にしないことにした。
「・・あ、香澄!どこいってたのよ?」
「いつもどーり、屋上」
「はぁ・・そう。本当にあんたって屋上好きよね?」
「まぁね」
麗華と話すことしばしば。急に、ニコニコしていた麗華の表情が固まった。
「ん?麗華・・?」
「あんた・・うし・・うし・・」
「牛?失敬な。」
「う・・後ろ!」
「?」
麗華の言葉どうり後ろを振り向くと―
「お、あんた。ちょっと質問があるんだけど」
さっき会ったばっかりの、準がめんどくさそうに立っていた。
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!?な・・!??」
派手な音を立てていすから転げ落ちる。さっきの尻餅の衝撃と相俟って、かなり腰と腰の下部が痛かったけれど、そういうのが頭から転げ落ちていた。
「悪い。ちょっと・・面かせや」
―殺される―?
「いやぁぁぁぁぁぁ!ごめんなさいぃぃぃ!!」
「え?ちょ?俺何か―」
「いやぁぁ!こないでぇ!」
真っ直ぐに走り出したあたしは、目の前にあった机の存在に気が付かなかった。
俺・・実はこの学校に来る前に―不思議な夢を見て―
夢?
それで―ここに来た時に・・また、話すな。
―まって!何で、またこんな夢・・?
その黒い瞳・・もしかして・・
まってよ!あたし・・あなたのこと・・!!
すずらんの香りがする。これは―保健室の布団を洗っているレノアの匂いか―・・?
「・・って?」
ぱちりと目を開ける。白い壁。広い空間。かすかに鼻を突くオキシドールのにおい。そうか、ここは―
「理科室、か」
「馬鹿かお前」
声のしたほうの主を振り向く。すると、頭の上から氷の入った袋が落ちてきた。
「ちべたぁ!」
「すまんすまん」
目の前に落ちた袋が取り除かれる。黒い瞳―
「準!」
「は?」
しもたー!!思いっきり呼び捨てにしてしまった!!これはもう・・これされるのを覚悟しないと・・!!
「・・って、なんでここにいるの?」
「お前さっき、教室で・・」
そういわれて、ふと思い出してみる。
「いやぁぁ!こないでぇ!」