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ある店主の思いで。

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「おじいちゃん。なんでおじいちゃんの骨董品店には水着が置いてあるの?」
 目をぱちくりぱちくりと動かし興味深げに、首を傾げながら孫が古びた箪笥の上に置かれた水着をゆびさし、わしに問いかけてくる。
「それはな……」
 わしは孫が興味を持ったそれを、八十年間ほど保管している水着を眺め、がはははと笑う。
 あの時のまだ、わしが俺だった頃の出来事を、何とも言えない複雑な気持ちになるが、思い出すのだった。
 
 かーん、かーん。
 うちの自慢のルイ十何世? とか何とかがむかしむかしの偉い人が使っていたらしい、柱時計が午後八時を告げた。
「さて店じまいと」
 これまた古いイギリスの女王様が使っていたらしい椅子から俺は腰を上げ、背伸びをしながら辺りを見渡す、溜息だけが出る。泣けてくる。
 過疎化が進み、自然溢れ空き家もいっぱいの故郷で念願の骨董店を出店し早一年。
 俺の店、観連堂(みれんどう)は今日の売り上げもなしだった。
 明日で家賃滞納二ヶ月目。大家であり幼馴染みのあいつに半殺しにされる。
 ヤバイマジヤバイ。
 きっと明日は大家に笑顔でぶん殴られるのだろうなあ。
 なんでこんな場所で店開いたのだろう?。
「あいつの側に居たかったからなあ」
 理由が不純すぎるぞ、自分。
「はあ」
 鏡に映る溜息した俺は、本当にダメダメな事業失敗した、焦燥した顔……でもない。
 にへらと余裕な感じだ。どうにかなるだろうさ。
 最悪、あいつに婿にしてくれというか。
「あのーすみません」
 突然に背後から声をかけられる。あれま、お客さんだよ。
「?」
 でもなぜ、と俺は首を傾げる。
 出入り口の扉には来店を知らせる鈴が付けてある。
 お客さんはそれを鳴らさずに入ってきたってことかい。
 どうやってだろう? 開ければ必ず鳴るようにしてあるはずなのにな。
 まあいいさ。お客さんが来たことに歓ぼう。
「いらっしゃいませ。観連堂にようこそ」
 久々の接客だったので、何とも変な笑顔で俺は声の方へとお客さんへ向く。
 そこには黒髪で着物姿の女の子が怨めしそうに一人、ぷかぷかと空中に浮いていた。
「あのーすみません」
「……はい」
 今日も訳アリのお客さんが来たよ。前日は鬼が箪笥を探しにきたな。前々日は座敷わらしが太鼓を買いに来たし。
作品名:ある店主の思いで。 作家名:いしし