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「山」 にまつわる小品集 その弐

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 秋が深まり、まもなく雪が降りだそうとする頃、アブスタン共和国とトルイスタン共和国からそれぞれひとりの男がやってきた。
 ふたりとも恰幅がいい。

「やあ、元気そうじゃないか」
「君も順調そうだね。おや、小屋の主が代わったんだね」
「前の男はプルシーコフと言ったと思うが、欲の深い男だったよ」
「おい君、名は?」
「イワン」
「どこかで会ったようにも思うが・・・食糧や燃料は届いているね」
 イワンは黙ってうなずいた。
「じゃまた1年、頼んだぜ。ところで収穫はどうだった」

 アブスタンとトルイスタンからの亡命者は、持てるだけの財産を隠し持ってこの山小屋への道を辿る。
 それぞれの相手国には自由がある、と信じて。
 また知り合いを頼って、窮屈な生活から逃れようとして国境を越えてくるのだ。
 そしてほとんどの者はこの小屋に宿泊を乞う。

 小屋主であるプルシーコフは彼らを殺害し、金銭財宝を奪うのが仕事だ。アブスタンとトルイスタンの独裁者である将軍同士のたくらみでもある。
 1年間の生活の保障と引き換えに財宝を受け取り、ふたりで分配していた。
 小屋主は、たいていどこかに傷を持っている者がなっている。
 イワンは地下で見つけた日記からそれを知った。

 アブスタン共和国の将軍がやって来た日に、彼らを殺して自分も死のう、と思っていた。


 ドキューン、ドキューン、・・・

 3発目は発せられなかった。
 イワンはヒトの肉のうまさを知ってしまったのである。
 たっぷりと脂を蓄えた肉の誘惑に勝てなかった。
 すでに精神的に病んでいるイワンは、落ち窪んだ目と頬が削げてしまった顔をほころばせた。


                       2011.6.7